最低賃金「1000円到達」次の目標は7年後に1370円 日本も世界標準「50%・60%ルール」を導入せよ

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一方、この期に及んでも、企業の経営者が賃上げに対して前向きな姿勢を見せているとは言えないのが現実です。

例えば、日本商工会議所が2023年3月28日に発表した「最低賃金および中小企業の賃金・雇用に関する調査」によると、2023年に4%以上の賃上げを実施する企業は、全体の18.7%にすぎません。また、3%以上の賃上げを行う企業も33.5%にとどまります。

驚くべきことに、46.8%の企業は2%台以下の賃上げしか行っておらず、従業員の実質的な可処分所得は大幅に減少しています。

今年の4月に上梓した書籍『給料の上げ方』でも説明しましたが、本当の昇給は定期昇給ではなく、ベースアップです。商工会議所によれば、今年の賃上げの76.1%が定期昇給であり、ベースアップを行う会社は40.8%にすぎません。

つまり、この物価高の中でも、本当に賃金を上げている企業は全体の40.8%にすぎないのです。最低賃金に対する経営者の考え方は冷淡なので、当然と言えば当然なのが極めて残念です。

政府は賃上げをうながしているのに、経営者は賛同していないという決定的なデータがあります。1990年以降、同一属性の大卒男子の初任給はほとんど上がっていないのに、最低賃金は大きく上がっているので、最低賃金は大卒男子の初任給に迫っています。経営者がいかにコスト削減ばかりやっているかがわかります。

2023年の最低賃金の引き上げに関しても、33.7%の経営者は最低賃金を「引き下げるべき」または「現状維持するべき」と答えています。一方で、「引き上げるべき」と答えた経営者は全体の42.4%を占めていますが、そのうち1%から3%までの引き上げを支持する経営者が18.5%で、3%以上の引き上げに賛同する経営者はわずか12.3%です。

このデータからも、企業の経営者は相も変わらず、付加価値の向上や賃金の引き上げに消極的な姿勢を示していることがわかります。

最低賃金で働く人が多い業種はどこ?

2016年に最低賃金の引き上げにより影響を受けた企業は、全体の15.8%でしたが、2023年には38.8%まで増加しています。

ここで言う「影響を受けた企業」とは、最低賃金が上がったために賃金を引き上げた企業を指しています。つまり、自発的に賃上げを行ったのではなく、国が最低賃金を引き上げたために、賃上げを強制された企業のことです。

日本の企業経営者は一般的に賃上げにはまったく消極的なので、最低賃金を上げるなどの強制力を行使しないと、平気で何十年も賃金を上げようとしません。日本でその傾向が極めて顕著なのは、『給料の上げ方』でも詳しく説明したとおりです。

最低賃金の引き上げは、格差社会の是正にもつながるので、日本の社会にとってもプラスに働くにもかかわらず、経営者が後ろ向きなのは、日本にとってとても不幸なことです。

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