NHK柳澤さん、「後藤さんとの思い出」を語る

後藤健二さんの死がテレビに遺したもの

そう考えればなおのこと、後藤君が何考えていたのか。彼が一番何伝えたかったのか、そこに収斂していたような気がします。

──後藤さんは大学の卒論で「湾岸戦争の取材」をテーマにしたとか。

彼がよく言っていたんですよ。柳澤さんが湾岸戦争に行った時はどうだったのかと。ちょっとすれ違いざまに会う時に、湾岸戦争で取材した時って、あれはどういう形でやったんですか、すごかったですね、とか。彼一流の語り口でね。よく聞かれた記憶があるんですよ。

──湾岸の頃って、フリーの人はまだ……?

入る余地はなかったですよね。

戦争自体の形が湾岸戦争の当時と、イラク戦争の頃から変わってきて、今のシリア、イラクはまったく違うものだと思います。昔はまさに国と国との対称性のある戦争で、どちらが敵でどちらが味方かという、戦場の一種のルールみたいなものがあった。

湾岸戦争の時にはイラクの情報省がビザを出す時に、何を考えていたのかというと、自分たちの宣伝効果を一番アピールできるメディアを選ぶということ。で、開戦の時はCNNを残した。僕が入った時には17人の外国人ジャーナリストがいましたけど、それもある程度、メディアの発信力のあるところを選んでいた。

だからフリーランスというのは当時は発信力ということでは力を発揮する場がなかった。

一方のアメリカにしても、あの時は従軍を認めていませんでしたけど、サウジアラビアのリヤドの司令部に記者を集めて、そこで情報発信する。そうなるとフリーが入る余地は、大手メディアが目を向けないところに入っていくしかない。

それで後藤君が西アフリカに入っていったのは無理ないなあと思った。リベリアですよね。大手のメディアが目を向けない。国際的にも、大変なことが起きているんだけどメジャーに取り上げられないような。そういうところを、石を剝がさないと外からは見えない問題を、懸命にひっぱり出すような……。

あの当時、僕はソマリアにもしょっちゅう入っていましたけど、小型機をチャーターしないと入れない。僕らはナイロビから小型機をチャーターして入っていましたけど、あれ、フリーはスポンサーがつかないと、できない。しかも、あの当時はインマルサット(衛星通信)を持っていって、連絡の通信手段を確保しないととても危険地帯には入れないという時代だった。機材の面でも、そういった移動の面でも、なかなかフリーの人たちが今みたいに自分たちの仕事をする……というのはできなかった。

定点観測という強み

ただ、そうはいっても長年お世話になっているフリージャーナリストの土井敏邦さんと初めて会ったのは、アラファトがガザに凱旋したときで、あのぐらいの時代から、フリーの人たちは継続してとにかく入って来るようになった。彼らはいったん照準を合わせたら、そこからけっして目を離さない。何度も何度も繰り返し入って、定点観測的にやっていく。

僕らのような大手メディアだと、何か起きるとそっちのほうに目を向けて、渡り歩くような感じだったですけど、そうじゃなくて、一度自分でテーマを見つけると、そこにずっと入っていく。

僕はけっして戦争を好きなわけでもないし、戦争ほど嫌なものはないと思っているけど、でもこういう仕事をしていると、そこの中に究極なものがやっぱりある。戦争とか前線とか紛争のなかには、いつも繰り返される、どうにもいたたまれない不条理なものが凝縮されていると、それを伝えるのが僕らの仕事だと思う。これはどんな時代でも、それが僕らに課せられた仕事だろうと思う。

──「あさイチ」での「この機会にそういうことを考えていかねばならない」という言葉が印象的。「私たち自身が答えを探していかねばならない」ということですね?

そうですね。考えていく、というのが大切だと思うんですよね。簡単に答えが見つかるわけじゃないし、そういう方法がどこかにあるわけじゃないけれど、考えることを止めたらおしまいだし、考えつづけることがとにかく大切なことだと思う。考えることをあきらめちゃ、絶対にいけない。

四六時中考えているのはつらいし、夕方になれば夕飯、何食おう、とか、日常生活に埋没していくことも無理のないこと。でも、それは、時々でもいいから、どこかに、自分の記憶の中に呼び戻して、考えていかないといけない。今度の事件は、そういうことをわれわれに投げかけているのかなと、そんな気がしてならないんです。

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