NHK柳澤さん、「後藤さんとの思い出」を語る

後藤健二さんの死がテレビに遺したもの

だってひょっとしたら、あと1時間後、半日後、自分はどうなるかっていう、ものすごい緊張状態に置かれている、というイメージでしょ。それぐらいに張りつめた状況だけれども淡々と機械的に、与えられたことを口にしているというその緊張の度合いというのは、昔、イラクでアメリカ兵に銃口を向けられた時に、自分は日本のプレスだと名乗った時の声とどこか共通するような、緊張感が極まったようなものに聞こえましたね。

──柳澤さんはこの間、ずっと後藤さんのことを考えていたのですか?

笑い話として受けとられるかもしれませんけど、殺されたという映像が流されたのが朝5時ぐらいですよね。その数時間前の夜中、夢枕に後藤君が立ったんですよ。なんか風が強くて、がたがたと外で音がしたので「ああ風が強いんだなあ」と思った瞬間に、後藤君の顔が目の前に浮かんで……。それで日曜日でしたから、ぼくは普通は日曜日には早く起きないので。

目覚ましのラジオのタイマーを切っていたんですが、あの時はなぜか自分でラジオのスイッチを入れたんです。ちょうど5時にラジオをポンと入れたら、後藤君のニュースをやっていた。これはなんか神がかった話に聞こえるんですけど、実は前の晩、夜8時過ぎに、どうにもいたたまれなくって、もう彼が見ることはないかもしれないと思いながらも、彼のメールアドレスにメール打ったんですよ。

「NHKの柳澤です。とにかく何があっても生きて帰ってきてください。祈っています」と。

そんなこともあったんで、気持ちのうえで後藤君が枕もとに立ったような錯覚を起こしたのかなあとは思うんです。でも……、僕の記憶の中では後藤君だったし、何も言わずにすーっと消えていって、で、朝、目を覚ましてラジオつけたらそれでしょう? 

それぐらい僕のなかでは彼のことは、ずうっと離れないでいましたね。

──あの「あさイチ」の冒頭のコメントはいつ決めたのでしょうか?

決めたって、あの時です。まさに放送で。

──放送の時?

何も書いたりなんかはしていません。何の原稿もありません。前日「どうしましょうか」とプロデューサーから電話があったけど、特に何も決めず、当日、放送の前に、「どういうふうにしますかね。映像素材入れてとか、もしやるとしてどのぐらいにしますかね」なんて話もしました。いわゆる解説コーナーみたいにして4分くらいやりましょうか、という話もあったのですが、「解説じゃないだろう」という思いが僕も強くて……。

まあ、放送が始まった時の雰囲気でいこうか、という話になったんです。

だからおそらく、副調整室にいたみんなは僕がどれだけ話すかなんてのは、尺も読めないだろうし、いつものように「朝ドラ受け」が始まっちゃったし、「ちょっとごめんよ」という格好でなんか言いたくなっちゃったというのが実状。だから一言一句、何も書いていないんです。

口をついて出てきたことを、言葉にしただけ。それも後でイノッチ(井ノ原快彦キャスター)に言ったんだけれど、「あれ、オレじゃなくて、後藤君がオレに言わせていたんじゃないのかなあ」と。それが本当のところです。

後藤君が突っ走って伝えようとしていたこと

計算も何もなくて、ただひとつあの時、僕が言うとしたら、後藤君はどういうふうに思っているのかなあ、ということ。もうその一点だったんですよね。周りがどうのこうのというよりも、後藤君が本当に何を、あそこまで一生懸命、突っ走って伝えようとしていたのか。

それは僕自身もわかっているようでわかっていない部分があるから、そういうことを自分も含めて考えなきゃいかんなって。それだけですね。

まあ、ご存知のとおり、あのニュースの後は邦人保護の話だとか。救出の話とか、僕から見るとピンとこない話がニュースの中でヘッドラインになっていた。後藤君が一番あそこで伝えたかったことって、最後の瞬間って何考えていたのかわからない部分があるにしても、シリアで何が起きているかということと、とんでもないことが起きた時につらい思いをするのは誰だってこと。それを伝えたいのに、どこからも目を向けられずに、何かあさっての方向に話が向かっているような気がしていたという感じがものすごく強かったですね。僕は……。

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