「運動会を嫌がる子」に隠された"深刻すぎる原因" "神経質な子"ではなく"感覚過敏"かもしれない

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つまり、子どもが運動会という“画一的な環境の中”で実力を発揮できない理由の1つに、「感覚過敏」「感覚鈍麻」といった“感覚特性”が関係しているかもしれない、というワケだ。

自分の子どもが「神経質すぎる」と悩む人へ

「感覚」は、目に見えず、他人と共有することができないため、特に学校のような集団生活の中では、とかく勘違いされやすい。また、みんなが同じものを見て触れて同じように感じていると勘違いされるのみならず、当たり前のように存在する音や光やにおいなどで苦痛を感じている人がいるとは、なかなか想像できないもの。

加藤さんが主宰する「感覚過敏研究所」で医療アドバイザーを務める児童精神科医の黒川駿哉氏も、「児童精神科医として、感覚過敏や鈍麻が日常生活に大きな影響を与えていることを見てきた」という。

黒川氏曰く、「これらは、感覚の入力や統合、感情や記憶、強調運動などが複雑に絡み合った結果です。しかし、多くの人にとってこれは生まれつきの『デフォルト設定』で、自覚されにくいもの。感覚過敏や鈍麻は、病気だけでなく『定型発達』の人びとにも見られます。つまり、これは『異常』ではなく、人間の多様性の一部です」。

もちろん、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、知的発達症(ID)、発達性協調運動症(DCD)、不安症、うつ病、PTSDといった、感覚過敏や鈍麻と親和性の高い医学的診断名もあるが、「これらの診断名がつくことは『異常である』というレッテルが貼られることではありません」と黒川氏は強く訴える。

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くり返しとなるが、先述したとおり、感覚過敏や鈍麻は「定型発達」にもみられる特性であり、いわば「人間の多様性の一部」なのだ。

私たちは「普通の人とは違う感覚過敏という人がいるから助けよう」という視点から、「もともと人はそれぞれ違うから、どんな特性の人の参加も阻まないようにしよう」という視点へのシフトが必要だと、黒川氏はメッセージを贈る。

現在、感覚による困難さを正確にアセスメントし、改善するような治療や支援についての科学的な知見が、日々、積み重ねられているという。

もし、自分の子どもが「神経質すぎる」「怖がりで何もできない」「大したことでもないのにツラそう」「理由もわからず登校しぶりや不登校がある」……そんな悩みを持つ保護者はぜひ、これら「感覚過敏」「感覚鈍麻」といった“感覚特性”について、一度、掘り下げてみてはいかがだろうか。

加藤 路瑛 「感覚過敏研究所」所長

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かとうじえい / Jiei Kato

2006年生まれ。17歳。株式会社クリスタルロード代表取締役社長。感覚過敏研究所所長。聴覚・嗅覚・味覚・触覚の感覚過敏があり、小学生時代は給食で食べられるものがなく、中学生になると教室の騒がしさに悩まされ中学2年生から不登校。その後、通信制高校へ進学。子どもが挑戦しやすい社会を目指して12歳で親子起業。子どもの起業支援事業を経て13歳で「感覚過敏研究所」を設立。感覚過敏の啓発、対策商品の企画・生産・販売、感覚過敏の研究に力を注ぐ。

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黒川 駿哉 精神科医

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くろかわ しゅんや / Shunya Kurokawa

1987年生まれ、山形大学医学部医学科卒、慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程修了。慶應義塾大学病院、駒木野病院、九州大学病院、島田療育センターなどでの勤務を経て、現在は不知火クリニックにて児童~成人の発達障害の専門外来をおこなっている。英国にてADOS2(自閉症スペクトラム観察検査) 、ADI-R(自閉症診断面接)の研究用資格を取得し、児童・発達障害領域の腸内細菌、遠隔診療など多数の国内外の研究に携わっている。子どもの主体性を引き出す様々な団体の活動支援に力を注いでいる。医学博士、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会認定産業医。

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国実 マヤコ 書籍編集者、文筆家

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くにざね まやこ / Mayako Kunizane

1977年東京生まれ。青山学院大学文学部史学科を卒業後、出版社勤務を経てフリーランスに。書籍の編集、および執筆を手がける。著書に『明日も、アスペルガーで生きていく。』(ワニブックス)がある。NHK「あさイチ」女性の発達障害特集出演。公開講座「大人の生きづらさを知るセミナー」京都市男女共同参画センター主催@ウイングス京都にて、講演会実施。著者HPはこちら

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