空港施設を「闇討ちしたJAL」、社長解任劇の舞台裏 事前通知なしに反対票、理由を語らない大株主

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1つ目が国交省への忖度(そんたく)だ。2022年12月、元国交省事務次官である本田勝氏が、空港施設の副社長(当時)で元国交省東京航空局長の山口勝弘氏を社長へ昇格させるよう要求していた際に、乘田氏は「社長は指名委員会で選考することになっている」と、その要請をはねつけた経緯がある。この問題で、同省は空港施設の天下りポストを失っている。

国交省は、航空各社のドル箱路線である羽田空港発着枠の配分を主導しており、次の配分が2025年に控えている。国交省の不興を買えば、JALに不利な枠配分になる可能性がある。この問題の幕引きを図るために乘田氏に反対票を投じ、国交省への「けじめ」をつけたということだ。

もう1つの理由が、「人事ローテーション」を崩した取締役候補案をJALが許さなかったというものだ。これまで、JALは役員クラスのOBを空港施設の取締役へ送り込んでいた。今回、取締役を10年間(うち4年は社外取締役)務めた乘田氏に代わり、JAL出身の西尾氏が新任取締役に就任するのが通例だったが、取締役候補案では乘田氏の代表取締役社長留任が示されていた。

旧来型の慣習を踏襲した大株主

6月29日の株主総会で取締役再任案が否決された乘田俊明氏(編集部撮影)

空港施設の関係者は、「4月に受領した報告書に基づいて指名委員会で議論をしたところ、乘田氏が社長に適任であるという結論になった。取締役のスキル構成を基に議論したもので、JALとANAのバランスは考慮していない」と、 JAL出身者が取締役候補の2人となった背景を打ち明ける。

だが、JALからすると、「乘田氏は空港施設社長のポジションに固執している」と見えたのだろう。これまでの慣例を踏襲するために、乘田氏には反対票を投じたということだ。

一方、忘れてならないのは、空港施設は上場企業であり、国交省OBによる天下り問題を受けて、ガバナンス改善の提言が打ち出されたばかりである点だ。検証委員会の報告書は、「旧来型のステークホルダー論に固執した経営体制を維持することは上場企業としての社会的責任を履行できない」と指摘している。

乘田氏は、空港施設のガバナンス体制を強化したほか、今後の成長への布石として、空港に依存しない不動産リートの組成など、空港外の収益拡大を打ち出していた。JALの反対理由が国交省に対するけじめと社内事情によるものでしかないのであれば、少数株主に対して正しい選択だったのか、疑問が残る。

「主要株主が反対票を投じたのであれば、しっかりと理由を説明するべきだ。ノーコメントを貫くJALは、グループガバナンスの視点からも、ガバナンス不全を示しているように思われる。社会的にも注目されている事案に対して、なぜ何らの説明もなく自社出身の取締役に否決票を投じたのか、私がJALの社外役員であれば、取締役会の議題に上げてもらうだろう」

こう指摘するのは、空港施設の国交省OB人事介入問題で検証委員会の委員長を務めた八田進二氏だ。同氏は、JALをはじめ、多くの企業で社外役員を務めてきた。

反対票を投じるのであれば、株主総会前に株主提案や反対推奨などを意見表明することができたはずだ。事前の通知なしに反対票を投じたJALには、明確な説明が求められる。空港施設で起きた異常事態で問われているのは、JALのガバナンスでもあるのだ。

星出 遼平 東洋経済 記者

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ほしで・りょうへい / Ryohei Hoshide

ホテル・航空・旅行代理店など観光業界の記者。日用品・化粧品・ドラッグストア・薬局の取材を経て、現担当に。最近の趣味はマラソンと都内ホテルのレストランを巡ること。

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