数学のソリトン理論で渋滞、津波を解明--『とんでもなく役に立つ数学』を書いた西成活裕氏(東京大学先端科学技術研究センター教授)に聞く
純粋数学が社会の難問解決に使える--。数学を応用した「渋滞学」で知られる西成活裕教授は、社会問題全般の解決に数学、特に微分が有効だと説く。
──今回の東日本大震災に渋滞学は威力を発揮しましたか。
いろいろ役立ちそうだ。
たとえば、ロジスティクス。被災地に物が届けられない。救援する側には山のように物資があっても、何をどこにどうやって運ぶか。ボトルネックばかりが目立った。どこに集結拠点を置き、限定されたネットワークの中でどのように効率化、最適化するか。まさにこれは渋滞学の出番だ。最近では、遅れている被災地の仮設住宅建設にアイデアを出したばかりだ。
一つ指摘しておきたいのは生活協同組合ルートの活用だ。東北の被災地では、生協が日頃きめ細かく戸別配送を行っていた。この発達した組織の活躍を初めから促すべきだった。地元の事情に詳しい物流のプロが指示を出す。緊急時の円滑な物流には経験者が要所要所に欲しい。
──情報提供でも渋滞学は有効とか。
情報提供のあり方は、その情報を受けた側の行動に影響を及ぼすことを抜きに考えられない。どう反応するかという問題を解かないといけない。解は単純でない。となれば、すべての情報をただ何でも流せばいいというものではない。それを理論化するのが渋滞学だ。
渋滞学はカーナビにも取り入れられようとしている。一例を挙げれば、混雑時の抜け道情報を3割ぐらいの人に教えるほうがトータルで効率がよくなる。抜け道情報を知らない人は渋滞を我慢して同じ道を走る。知っている人は抜け道に行く。不公平だとして全員に教えると、結局、抜け道も大渋滞して全員が不幸になる。そういうことも考えつつ、情報発信をしていくことが大事だ。