数学のソリトン理論で渋滞、津波を解明--『とんでもなく役に立つ数学』を書いた西成活裕氏(東京大学先端科学技術研究センター教授)に聞く
──ビジネス界ではやっているフェルミ推定より強力ですか。
フェルミ推定は、むちゃくちゃな問題も論理的、数式的に解いていこうとする考え方だ。たとえば、大きなバスタブにゴルフボールがいくつ入るか答えなさい、などの問いに使われる。しかし、よくある升目に区切ってどうのこうのという解ではなく、微分を使えば、より説得力を増す。
この本では、東京マラソンで3万人の一斉スタートを例にした。これは究極のフェルミ推定。どうすれば全員をより早く、スムーズにスタートさせられるか。この考え方を深掘りして、微分によってきちんとした解を得ることができた。
かつ、問題をどうすれば論理的に詰めていけるかも例示した。途中でわからないことには仮定を置く。仮定を置いたら、次の段階に進める。感受性のある人になら、この例のメッセージ性を感じ取ってもらえるのではないか。
数学で正しいことは絶対に正しい。それは政府が否定しても正しい。その決定的な力強さは会得すれば人間の芯になる。逆にその正しさが人間を力強くする。私が迷ってもくじけないのは、数学という背骨があるからだと思っている。
──微分の有効性は経済一般にもいえますか。
微分は世界共通言語。微分を使うと分野も国も超えて議論ができる。
渋滞について研究している教授がいるドイツのケルンに、1年ほど客員として行った。渋滞を研究していることで、いろいろな専門分野の人と交流もできた。私自身、「バブル崩壊は渋滞である」という内容の論文を、経済の先生と共同執筆し、ヨーロッパのジャーナルに載せている。