熱海の土石流災害から2年、生かされない教訓 悪徳業者と責任放棄の行政が生み出した惨劇

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この5月に施行された「宅地造成及び特定盛土等規制法」(盛土規制法)は、宅地に限定していた旧法を林地や農地に広げ、県知事が指定した区域への残土の持ち込みを許可制に改めた。

熱海の土石流災害をきっかけに成立した法律で一歩前進と言える。だが、建設発生土の排出から利用・処理・処分までの流れは把握できず、自然・生活環境の保全に目を向けたものではなかった。

土石流は人家をなぎ倒し、海に向かった。2年たったいまも爪痕は残る(6月29日筆者撮影)

背景には、省庁の縄張り争いが見え隠れする。内閣府の「盛土による災害の防止に関する検討会」では、委員の櫻井敬子学習院大学教授が、国交省が作成した報告書案について、「国交省色が非常に強い。ほかの省庁がもう少しコミットしやすいようにした方がいい」と述べた。

省庁の縄張り争いが法制化阻む

しかし、意見は生かされず、住宅地を所管する国交省と、林地・農地を所管する農水省と共管の法律になった。環境省は出る幕がなかったのか。

実は、残土問題が社会を賑わせていた2000年代初頭、環境省が法制化を検討したことがあった。357市町村が残土関連の条例を制定し、統一的な法整備を求めており、環境省の審議会で議論を始めた。しかし、建設省(現国交省)の猛抵抗にあい法制化は見送られることになった。

規制対象とすると、処理コストが跳ね上がり、利用が進まなくなるとの国交省の主張は、現在も変わらない。

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今回の盛土規制法に、環境保全の側面から関与すべき環境省は音なしの構えだった。環境省OBが語る。「残土問題は、悪徳業者も含めいろんな関係者が絡まってダークな世界。ややこしい世界に首を突っ込みたくないという判断だろう」。

汚染土の無害化処理にかかわる業者は次のように内情を明かす。

「まじめに汚染土や汚泥のリサイクルに取り組む業者が販路の開拓に苦しむ一方、熱海市の盛土の事例のように悪徳業者が暴利をむさぼる構造が存在する。省庁の縦割りを排し、土の世界全体に網をかける法律が必要ではないか」。

災害から2年経っても、「土の世界」の法規制の空白は少し埋まっただけである。

杉本 裕明 ジャーナリスト

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すぎもと・ひろあき

1954年生まれ。全農を経て朝日新聞記者。廃棄物、自然保護、公害、地球温暖化、ダム・道路問題、環境アセスメントなどを取材。霞が関行政に精通。現在はフリージャーナリスト。

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