日産、社長に権限集中で急ぐ経営再建と独立確保 経営陣の不協和音はあったが総会に波乱なし

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足元でも、中国ではEVシフトが急速に進む中、現地メーカーが躍進しており、日産は苦戦を強いられている。4月も1.5%減と回復の兆しは見えていない。

アメリカではインフレ抑制法(IRA)のEV税額控除の新基準が今年4月からスタート。日産のEV「リーフ」は電池にかかわる要件を満たすことができずに税控除の対象から除外された。スタート時点で対象外となったドイツのフォルクスワーゲンのEVは2日後に対象認定されたのに対し、リーフはいまだ対象外となったままだ。

2010年にリーフを発売しEVに先駆けた日産だが、世界のEVシフトには取り残されてしまった。日本でこそ軽EV「SAKURA」がヒットしているが、伸長著しい中国、アメリカ、欧州のEV市場で存在感は乏しい。かといって、EV以外での競争力にも疑問が残る。

株主総会では、1株当たり配当について会社提案の10円に反対し、15円を求める株主提案が出されていた。かつて日産は高配当銘柄として知られており、2019年3月期には年間57円の配当を行っていた。カルロス・ゴーン元会長の逮捕以降の業績悪化で配当水準が下がったことに不満を持つ株主は少なくない。

再成長への道筋をつけられるか

「こういう状況で(配当を)出し渋るのはおかしいと思いますよ」

株主提案をした株主が、上場する自動車メーカーの中で、日産のPBR(株価純資産倍率)が最も低く、スズキに時価総額を抜かれたことを指摘したうえで、会社は業績の回復を強調するのに取締役会が配当の増額を反対することに納得できないと主張した。4分ほどの発言を終えたとき、会場からは大きな拍手が起きた。

内田社長は動じることなく、「足下の事業環境はかつてない多くの外部要因の影響を受けており、こうした先行き不透明な事業環境において健全な財務体質を維持することが必要不可欠だ」と説明し、株主提案に反対を表明。また、「今後適切な水準である配当性向30%程度まで増額するべく取りくんでいく」と述べた。結局、10円配当の会社提案が可決、15円配当の株主提案は否決された。株主提案への賛成率はわずか3.66%だった。

総会後、「内田社長ばかり答弁していて、あんなにたくさん役員が並んでるのに彼らは何のためにいるのか」(70代個人投資家男性)や「質問に真正面に答えていない」(50代男性)といった不満の声が多かった。業績回復についても、「海外事業の円安の恩恵が大きかったのでは」(50代会社員男性)と株主はシビアに見ていた。

今年度は「Nissan NEXT」の最終年度だ。今秋には新たな中期経営計画も発表する。世界で戦えるEV戦略の策定など再成長への道筋を描き、株主を納得させられるか。日産の経営陣に足踏みをしている余裕はない。

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井上 沙耶 東洋経済 記者

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いのうえ さや / Saya Inoue

商用車・部品メーカーを担当。大学時代は写真部に所属し、社会学を中心に学ぶ。趣味は、漫画を読むこと、映画のサントラを聴くこと。

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