常識外な「悪質クレーマー」を犯罪心理学者が分析 クレーマーとストーカーは心理状態が似ている
悪質クレームは、従業員に精神的な被害を及ぼす。一方でクレームは商品開発やサービス改善につながるマーケティングの側面もある。桐生教授は「『クレームは宝』と言われますが、企業が商品だけに還元してしまっているケースがほとんどです。本来はクレームを受けた従業員のストレス程度の分析もする必要があります。マーケティングに生かすクレームと悪質クレームの両方を分析しなければなりません」と指摘する。
「おもてなし」を取り入れたことの弊害
実は数年前まで「カスハラ」という言葉は今ほど知られていなかった。しかし流通や外食、繊維などの労働組合「UAゼンセン」が大規模調査を行ったり、厚生労働省が企業向けに「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を策定するなど、認知は広がりつつある。
企業や業界団体が対策に乗り出しているほか、2023年5月には福岡県警が警察として全国初のカスハラ対策を導入すると発表して話題になった。桐生教授は「裏を返せば、これまでカスハラは黙認されていたということです」と話す。外国と比べても日本は「カスハラ大国」だ。
なぜ日本はカスハラ大国なのか。桐生教授は「日本は、戦後の高度経済成長で大きな発展を遂げた一方、個人は自立ができず、他人の顔色をうかがいながら生きる社会でした。自立した個人としての寛容さがないことが、カスハラ大国の一因ではないでしょうか。最近になり、ようやくこれでいいのかと皆が疑問に感じ始めたのだと思います」と話す。
また、以前は企業側が、客をクレーマーと呼ぶことを避けたいという風潮があった。価格競争の他に差別化できる「おもてなし」を取り入れた結果、客の期待とサービスにズレが生じてカスハラにつながったという見方もある。
同調圧力や画一的な生き方を強いられる風潮から人々が解放され、カスハラに対する考え方が変わってきている。