iPhoneの「アプリストア開放」に残る大きな疑問 政府が義務化方針、競争と安全は両立できるか

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高いと言われるアプリ配信の手数料だが、実際に30%の手数料を支払っているのはApp Store向けアプリ開発者の0.3%(Google Playは0.1%未満)にすぎない。大多数のアプリは無料、あるいはわずかな収益しか挙げていないからだ。iPhoneアプリの場合、年間売り上げが100万ドル以下の場合、手数料は15%に減額される。

つまり家電やスマートデバイスなどスマホ連携機器の対応アプリ、ネットサービスなどをスマホで簡単に利用するためにユーザーインターフェイスを整理しただけのアプリなどは、この手数料による影響は受けていない。大きな影響を受けているのは、音楽配信、ゲームや映像配信などのエンターテインメントが中心となる。

ここでも重要なことは”透明性”だろう。

例えばSpotifyは、サブスクリプション型の音楽配信サービスでダウンロード型サービスを駆逐し、アップル自身の音楽配信サービスの形態も移行させたイノベーターだ。かつて、月額料金の30%を取られるのは不当と、アップルのアプリストア手数料を強く批判していた。

もっとも、Spotifyのサービス契約はApp Store以外からも行える。App Storeで配布したアプリでも、App Storeを通さずに契約していれば手数料は必要ない。App Store経由で契約したとしても、サブスクリプションサービスの場合、契約から1年を超えると手数料は15%に減額される。

安全性と発展性をどう両立するか

iPhoneがもたらす市場規模を考えれば、まったく新しいアイデアで何らかのサービスを開始する場合、30%の手数料を支払ってでも、アプリ内課金システムを利用するほうが合理的だろう。

その後サービスが継続できるだけの成功を収めれば、手数料は半分に減額され、さらにサービスとして定着すれば、更新時に自社サービス内での決済を促すことも不可能ではない(実際、Spotify有料会員のうち、App Store課金を利用しているのは2019年時点でも0.5%だった)。

では30%の手数料は取りすぎなのか。その後の減額プランも不適切なのか。

デジタル市場競争会議の最終報告は、App Storeで配信するアプリから、外部サイトへと誘導してApp Storeのアプリ内課金を使わずに決済することを禁止してはならないとする規制の実装を示唆している。しかしそうした手法が逃げ道となってアプリ配信の基盤に影響が生じたとき、スマホを取り巻くエコシステム全体がよい方向に振れるかどうか、正確には予測できない。

業界全体を見渡したうえでの適切な判断を行えるよう、透明化の枠組みを提案するためにも、プラットフォーマーに対して、アプリストア運営に関連したコストや利益配分の根拠について、より透明性の高いデータの提出を求めるほうが建設的ではないだろうか。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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