iPhoneの「アプリストア開放」に残る大きな疑問 政府が義務化方針、競争と安全は両立できるか
iPhoneの基本ソフトであるiOS自身に、セキュリティホール(脆弱性)が皆無というわけではない。しかし、他の汎用コンピュータが導入しているアンチウイルスソフトが不要であるにもかかわらず、iPhoneにマルウェアがほとんどみられないことは事実としてある。
その理由として技術的背景が語られることも多いが、ここではもっとシンプルに歴史的経緯を触れておきたい。
iPhoneが世の中に登場した2007年1月、iPhoneはパソコンの機能を携帯電話端末に集約していた一方、パソコン(WindowsやMac)に蔓延するマルウェア対策への対応が徹底されていた。個人情報に最も近く、ネットに常時接続されるコンピュータになる、という考えからだ。
当初、他社製アプリは利用できず、自社製アプリのみに限定。当時のパソコンでは一般的ではなかった”サンドボックス“(制限環境でアプリを動かすことで安全性を高める技術)でアプリを動作させた。
並行してアップルは、第三者が開発したアプリの品質や機能、セキュリティやプライバシーへの配慮をチェックするため、アプリ審査の体制を整えて2008年7月にApp Storeのサービスを開始した。基本手数料の30%も、このときに設定されたものだ。
iPhoneの品質を支える厳格なアプリ審査
つまりiPhoneを主語にすると、”多様なリテラシーのユーザー層がネットに接続された端末を一般的な携帯電話と同じように使う”ことを前提に、安全に使えるようクリーンなシステムにしながら開発者にプラットフォームを開放する手法として用意されたのが、App Storeなのだ。
アプリ審査では、性的、暴力的、差別的な表現やビジネスモデル、ユーザーインターフェースなどについて、厳格なガイドラインがある。審査が通過しなかった際に、その具体的な理由について知らされないため、アプリ開発事業者から「厳しすぎる」「不透明」といった不満が以前からあることは確かだ。
一方で、この厳格な審査はiPhoneのセキュリティを支える柱でもあり、そこに他社の影響を挟んでしまうと、iPhone全体の品質を自社ではコントロールできなくなる。
アプリ審査はiOSの機能強化などとも緩やかに連動し、セキュリティとプライバシーに関するポリシーの変化にも追従している。長期的なiOSのアップデートに対する互換性維持や最新バージョンへのアップデートに関しても、アプリストアだけでなく、システム全体で促すよう作られている。
iPhoneというハードウェア製品の体験価値とセキュリティを維持しながら、アプリストアだけを製品と切り離すのは困難であることが想像できるだろう。
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