入管法で露呈、日本の民主主義は死滅状態にある 難民審査も、改正プロセスも不透明すぎないか

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民主主義国家であれば、メディアはこのようなビデオへの対応を要求するものである。対応がなされなければ、街は「正義」を求める怒れるデモ隊で埋め尽くされる。アメリカでは、黒人男性のジョージ・フロイド氏が警官の靴の下でゆっくりと死んでいく映像が拡散され、大きな議論を呼んだ。

フランスの場合、2つの政党が健全に政権を争っているため、法改正のプロセスの透明性を高めることができただろう。メディアは独自に調査を行っただろうし、NGOが数十万人を動員し、街頭演説を行ったに違いない。

難民に関するフランスの考え方の最新の例は、セドリック・ヘルー氏である。このフランス人農民は、2016年と2017年にイタリア国境を通過する移民を支援したことで何度も逮捕された。

2018年7月6日、フランス憲法評議会は、フランス憲法の友愛の原則が特に 「人道的な目的のために、国土への存在の合法性にかかわらず、他者を助ける自由を与える」として、同氏の移民を助ける行為を合法とする判決を下した。

日本人はほぼ無関心か静観している

日本は今、難民や移民に対する基本的な権利の欠如で国際的に際立っている。オーバーステイというたった1つの罪で、無期限収容が可能なのだ。こうした収容は10年前に台湾で、数カ月前に韓国で憲法に反すると判断されている。

他方、日本では、外国人の収容について学術的な議論すらほとんどなされていない。人々はこうした状況を自分には関係ないからと無関心か、あるいは静観し、メディアが精力的に報じることもない。テレビでデモの様子が映されることあってまれである。

柳瀬氏は、日本がなぜ難民や移民にこうも閉じてきたかという問いに対して、「欧米諸国は移民の力で経済や社会を発展させてきたが、日本は移民の力を必要とせずここまでやってきた」との考えを示した。が、人口が急激に減っている日本がそんなことを言っていられる立場にあるのだろうか。

残念ながら入管法改正のプロセスは、民主主義の国際的基準からいかに後れているかを如実に示しただけだった。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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