「年に3%のGDP成長率」が無理筋である納得理由 ひたすら経済成長を追い求めることの不合理性

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両者がきっちり連動しているわけではないが、生産量が増えるにつれて、世界経済は年々より多くのエネルギーと資源を消費し、大量の廃棄物を生み出してきた。

現在では、科学者が「プラネタリー・バウンダリー」〔地球の限界──地球上で人間が安全に生存できる限界〕として定量化した限界を大幅に超え、生物界に破壊的な影響を及ぼしている。

不平等がもたらす危機

もっとも、人新世という言葉の意味とは裏腹に、生態系の危機は「全人類」によって引き起こされているわけではない。これは重要なポイントだ。

低所得国(実質、グローバル・サウスのほとんどの国)は、自国に課されたプラネタリー・バウンダリーをまだ超えていない。実のところ、そうした国の多くは、国民のニーズを満たすためにエネルギーと資源の消費を増やす必要がある。

問題を引き起こしているのは高所得国で、そこでは成長が「必要」という概念から完全に遊離し、人間が繁栄するために必要な量をはるかに超える成長が長く続いている。

地球規模の生態系崩壊のほぼすべての原因は、高所得国の過剰な成長、とりわけ超富裕層による過剰な蓄財にあり、グローバル・サウスと貧困層は不当に傷つけられている。

結局のところ、これは不平等がもたらす危機なのだ。

(翻訳:野中香方子)

ジェイソン・ヒッケル 経済人類学者

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Jason Hickel

英国王立芸術家協会のフェローで、フルブライト・ヘイズ・プログラムから研究資金を提供されている。エスワティニ(旧スワジランド)出身で、数年間、南アフリカで出稼ぎ労働者と共に暮らし、アパルトヘイト後の搾取と政治的抵抗について研究してきた。近著The Divide: A Brief Guide to Global Inequality and its Solutionsを含む3冊の著書がある。『ガーディアン』紙、アルジャジーラ、『フォーリン・ポリシー』誌に定期的に寄稿し、欧州グリーン・ニューディールの諮問委員を務め、「ランセット 賠償および再分配正義に関する委員会」のメンバーでもある。

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