ナイキが証明!「政治的に正しい方が儲かる」理由 「意識高い系」と「意識低い系」の2つの資本主義

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2018年9月、ナイキは「Just Do It」のスローガンを掲げた30周年記念広告キャンペーンに、NFLのスター選手コリン・キャパニックを登場させた(写真:Robert Alexander/Getty Images)
近年「WOKE」という言葉がよく使われている。「WAKE=目を覚ます」という動詞から派生したこの言葉は「社会正義」を実践しようとする人びとの合言葉になっている。たとえば、一般消費者向け企業が、気候変動、銃規制、人種平等などに参加する様子は「Woke Capitalism」と呼ばれる。このほど上梓された『WOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』で、著者のカール・ローズ教授は、企業が社会問題に取り組むことそのものが本音レベルで利益に直結する現代資本主義の構造と問題点を描いている。私たちはこの状況をいかに読み解くべきか。思想家の内田樹氏が分析する。

「意識高い系」のセレブたち

「ウォーク資本主義(woke capitalism)」とは聞き慣れない言葉である。本書はこの「聞き慣れない言葉」の意味をていねいに教えてくれる。でも、説明されても「ああ、『あのこと』ね」とぽんと膝を打つという人はあまりいないと思う。woke capitalismは日本にはまだ存在しないからである。

WOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす
『WOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

wokeはwake (起こす、目覚めさせる)という他動詞の過去分詞である。「目覚めさせられた」という意味だが、60年代からアフリカ系アメリカ人の間では「人種的・社会的差別や不公平に対して高い意識を持つこと」という独特の含意を持つようになった。そういう意味で半世紀ほど使われたあとに、意味が逆転した。

意味を逆転させたのは「政治的に反動的な信念を抱く人々」である。彼らは差別や不公平に対して「高い意識を持つ」というプラスの意味を反転させて「誤った、表面的な、ポリティカル・コレクトネス的な道徳性」(『WOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』19頁)をふりかざして大きな顔をする「いやなやつら」というネガティブな含意をこの語に託した(wokeに「意識高い系」という訳語を当てた訳者のセンスはすばらしい)。

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