維新・浅田均氏「緊急事態条項の新設は不可欠」 防衛力強化の財源、憲法改正問題をこう考える

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憲法に「実力組織」と書き込むことには、もう一つ、別の意味もあります。将来、自衛隊とは違う実力組織が必要になった場合に対応できる憲法にしておく。

現在、国連平和維持活動(PKO)で自衛隊を派遣するとき、自衛隊は今、行政各部の防衛サービスという分野を担っている組織という位置づけで、首相が行政各部を指揮・監督する形ですから、行政各部の自衛隊が海外で活動するときは自らを守る能力・権能が与えられていないので、ほかの国の軍隊に守ってもらうという変なことになる。

国連憲章は、集団安全保障体制ができるまでは、やむなく個別的自衛権と集団的自衛権の2つを認めるということになっていますから、国連軍や、それに準ずる多国籍軍に日本が自衛隊を派遣するとなると、国連軍などの指揮官の下に入ることになります。

その場合は、行政サービスの一分野から、軍事を独立させる必要があるわけです。それにも憲法改正が必要です。第9条を本格的に改正するなら、その点もセットにして取り組むというのが改憲の王道と思っていますが、残念ながら先の先の話です。

緊急事態条項の新設は不可欠

塩田:国会での憲法問題の協議で緊急事態条項の新設が取り上げられていますが、国会議員の任期延長の問題以外に、たとえば台湾有事が起こった場合の緊急事態というケースに対応するために憲法に新しい条項が必要では、といった議論は出ていませんか。

浅田:今、維新と国民民主党と衆議院の会派「有志の会」で、緊急事態条項を憲法に盛り込むような提案をしていて、国会の憲法審査会で議論の対象にするようにお願いしていますが、緊急事態のときに国会議員の任期延長をどうするか、参議院の緊急集会の規定をどう位置づけるか、任期切れで衆議院議員がいなくなったときに国会の機能をどう維持していくかという話だけですね。

ですが、本当の緊急事態とは、爆弾が落とされるとか、サイバーテロで全機能マヒが起こるとか、電磁パルス攻撃であらゆる通信が途絶えて、政府も国家としての機能を果たさないような事態ですよ。

立法機能も行政機能も司法機能も全部なくなってしまうような緊急事態に、国家としての機能をどういうふうに維持し、国家主権をどう守っていくのかというところに焦点を当てて、そのときに誰が誰に何を授権するかといった議論をしておかないと、緊急事態に対応できないと思います。

現在の国会での議論は、統治機能をどこまでどうするかというところまではいっていません。ほんのとば口です。緊急事態条項については、テロ、内乱も含めて、国家機能をどう維持していくかを議論し始めたところです。

塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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