DXですぐ「システムの話」をする人が危険な理由 デジタル化の「目的と手段」を取り違える末路

拡大
縮小

データ入力には大変な手間がかかるので、忙しい営業部門は乗り気ではなく、データ蓄積とモデル改善が全然進まない。上位レイヤーの担当者はDX推進に夢中になり、いつの間にか予測精度の高い機械学習モデルを構築することが目的となってしまう。現場担当者も、データがないので、機械学習のアルゴリズムをいじるなど、細部にこだわりだしてしまう。フォローを強化するための別の手段にまで頭が回らず、いつまで経っても解約率は下がらない。

また、非効率な投資をしてしまう、という懸念もある。たとえば、自社のホームページに掲載する商品に、手作業でイメージのタグ付けをしている、とする。他社のDX事例を見ていて、機械学習による画像認識で、自動的にイメージのタグ付けをすることを思いついた。高度なアルゴリズムを使ったモデルを構築する必要があるので、外部の専門家を雇い、数千万円かけて高精度な自動タグ付けシステムを開発した。

ここでの問題は、もともとの手作業は、担当者1名が月に数時間かけていただけだった、ということである。AIを活用した事例にはなるが、これでは費用対効果が合わない。

DXを目的化しないためには、何に気を付ければよいか

目的と手段を混同しないためには、まずは上位レイヤーの担当者が、ビジネス課題を言語化して下位レイヤーの担当者に伝え、解決できているのかを常に確認することである。

上位レイヤーの担当者は、複数の選択肢の中から当りを付けた一つの手段だけではなく、もともとの課題とその他の手段の選択肢も含めた問題解決像の全体を、下位レイヤーの担当者に伝えるべきだ。下位レイヤーの担当者は、まずは命じられた手段を目的として達成を目指すが、それができない場合、更に上位の目的を知ってさえいれば、無理筋の手段に余計な時間をかけずに、他の手段も検討できるようになる。

そして、上位レイヤーの担当者は、今選んだ手段が、もともとのビジネス課題解決に役立っているのか、頻繁に目的に立ち返る。頻度は下位レイヤーの担当者からの報告タイミングだけでなく、毎日でも良い。役立っていないのなら、違う手段を探すか、あきらめて経営リソースを別の目的に振り分けるか、意思決定する必要がある。

次に、手段はデジタル化以外をまず考えることである。

デジタル化ではなく、プロセスや組織を変える等、他の方法が効果的な場合は多い。無駄な業務や会議を廃止するのが、一番の効率化である。DX推進の担当者が考える場合、デジタル化は選択肢の一つとして必ず入る。なので、あえてそれ以外から考え、デジタル化に囚われずに、手段を自由に発想するようにしたい。

複数の解決手段の中で、デジタル化がもっとも費用対効果が高いということを評価したうえで、デジタル化の道を選ぶ必要がある。

上田 剛 株式会社IGPIビジネスアナリティクス&インテリジェンス ディレクター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

うえだ つよし

野村アセットマネジメントにて、販売用資料作成、債券ファンドの運用リスク管理、社内業績管理および競合との比較分析、金融市場分析等に従事。

IGPI BAI参画後は、金融・小売・製造・ネット・建設業界等を対象に、ビッグデータ解析による経営支援や、機械学習を活用した新規事業の開発、デジタルを活用した業務プロセスの改革・構築(DX)等に従事。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT