DXですぐ「システムの話」をする人が危険な理由 デジタル化の「目的と手段」を取り違える末路
問題は、上位レイヤーの担当者による伝え方である。上位レイヤーの担当者には解決すべき課題や達成すべきKPIがあり、それを目的として様々な手段の中から当りを付けて、下位レイヤーに実務を依頼する。本来は複数ある中から、とりあえず選ばれた一つの手段に過ぎないのだが、下位レイヤーの担当者にとっては、その一つの手段だけが目的になる。
上位レイヤーの担当者の方も、下位レイヤーの担当者から何度も報告を受ける中で、もともと複数あった選択肢の一つということは忘れてしまい、その手段を実行することに集中してしまう。その結果として、目的と手段がすり替わってしまう。
二つ目の要因は、デジタル化ありきで考えてしまう、ということだ。
ビジネスを変えるやり方は、デジタル化だけでない。まずは、たとえば工数の多い業務があるなら、その業務をやめられないかを考えるべきだ。やめられないなら、業務を変えることで効率化できないかを考える。そのうえで、デジタルの使い方を考えるのである。
そもそもの業務を変えなければならない場合、既存の業務のまま、いくらデジタル化したところで意味がない。業務を変える際の手段であるデジタル化は、むしろ検討の順番としては後の方になる。
また、デジタル化ありきだと、ビジネス課題がない業務に対してもデジタル化を考えてしまう。新しい技術を適用することは面白いので、色々なアイディアを考えることに夢中になりがちだ。しかし、そもそもビジネス課題がない業務に対する打ち手をいくら考えたところで、意味がない。
目的と手段を混同すると、何が起こるか
目的と手段を混同してしまうと、どんなことが起こり得るのだろうか?
まず、そもそものビジネス課題を解決できない。
たとえば、KPI達成目標が、顧客の解約率を下げることだとする。その手段として、「現在提供している商品の魅力度を上げる(価格を下げる・性能を上げる)」「より顧客に合った商品を勧める」「アフターフォローを強化する」などが考えられる。
うち実現性が高そうなのが、アフターフォローを強化する、という手段だったとする。そこで、全社的にDXを推進しているという状況もあり、解約率の高い顧客を機械学習で予測し、フォローを強化することにした。この時点で、「解約率を予測する機械学習モデルを構築せよ」という指令が下る。しかし、機械学習モデルのプロトタイプを構築してみたものの、顧客データが十分でなく、満足の行く予測精度が出ない。精度を上げるため、顧客データを営業部門に大量に入力させることにする。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら