最高益を見据えるトヨタが抱く「強烈な危機感」 グループ内で不正が続発、問われる企業統治

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今年4月末に100%子会社のダイハツ工業が衝突試験での不正を発表。ダイハツは第三者委員会を設置し、原因の究明に向けて調査を開始した。ダイハツの奥平総一郎社長は会見で「(客の)信頼を裏切ることになり、痛恨の極み」と謝罪し、背景について「担当の人間に一度で試験を通さないといけないというプレッシャーがかかった可能性がある」と見方を示す。

ダイハツで衝突試験の不正が発覚。4月に会見を開き、奥平社長(右)が謝罪した。対象車両の9割弱はトヨタブランドで販売されている(記者撮影)

この不正はダイハツの問題で済まない。対象車両の9割弱はトヨタブランドが占め、東南アジアなどで販売されているからだ。自動車会社として最も大切な安全領域での不正であるだけにトヨタ内部での衝撃も大きい。

豊田章男会長は、自社のメディアサイトに登場して謝罪しただけでなく、5月8日にはタイのバンコクで記者会見を開いて謝罪している。トヨタ社内からは「ダイハツへの委託の仕方も改めて考える必要がある」(トヨタ幹部)との声も上がる。

相次ぐ不正に危機感高まる

トヨタグループでは、日野自動車が2022年3月にエンジンの排出ガスや燃費試験での不正を、トヨタの祖業である豊田自動織機も2023年3月に主力のフォークリフト向けエンジンでの耐久試験の不正をそれぞれ公表した。

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トヨタでも一昨年から100%子会社を含む販売店で不正車検が相次いで発覚。今年5月には子会社が管理する顧客データ約215万人分がインターネットを通じて外部から閲覧可能になっていたという事案が明らかになった。

佐藤恒治社長は決算会見の冒頭で「トヨタは問題が発生したときには、全員が立ち止まり、現地現物で真因を究明し、改善し、再発防止に取り組んでいく会社だ」と強調、グループ全体でガバナンスの見直しを進める考えを示している。すでにグループ17社のトップが集まって会合を開き、再発防止策の策定や原因究明に着手する。

トヨタ幹部は「どれも個人というより組織の問題で、何が起こったのかしっかり真因を深掘りしなければならない」と危機感を示す。しかし、5月17日にはグループの愛知製鋼が顧客との契約外の製品を出荷した事案を公表。さらに5月19日にはダイハツで、新たに国内で売る小型SUV2車種でも衝突試験の不正が明らかになった。対象は約7万8千台で、このうち7割がトヨタブランドで売る車種が占める。

まさにグループ全体の「組織の問題」への対応が問われている。

グループで、ダイハツは東南アジアを中心とした小型車戦略、日野は商用車全般を担う。豊田自動織機や愛知製鋼はサプライチェーンを支えている。そこで不正が相次ぐようではトヨタの戦略の実行に支障を来しかねない。何より、「信頼」というトヨタの最大の資産が揺らいでいる。

横山 隼也 東洋経済 記者

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よこやま じゅんや / Junya Yokoyama

報道部で、トヨタ自動車やホンダなど自動車業界を担当。地方紙などを経て、2020年9月に東洋経済新報社入社。好きなものは、サッカー、サウナ、ビール(大手もクラフトも)。1991年生まれ。

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