むしろ、FRBが本来重視する雇用統計の結果だけで判断すれば、さらなる利上げ姿勢が示されていただろう。
銀行破綻でFRBの政策判断の基準は変わった
だが、FRBの政策判断の基準は、銀行破綻が起きたことで大きく変わったとみられる。預金流出に見舞われた中堅銀行の破綻をきっかけに、信用収縮による経済活動を落ち込ませるリスクを相当配慮せざるをえなくなった、ということだろう。
一定規模の銀行が破綻したことに関して、パウエル議長は金融監督が十分機能していなかったことを率直に認めている。FRB自身も信用収縮がもたらす影響度を見定められず不確実性があまりに大きいこともあり、政策金利を据え置いて様子を見るのが「無難な選択」になったと言える。以上が、政策姿勢が変わりつつある実情であり、その根拠はかなり曖昧ということになる。
一方で、パウエル議長は「利下げへの転換」という政策対応からは、かなり距離を置いているとみられる。市場では、現在の高インフレに対して当局が「甘い顔」を見せることは難しい、との認識は強い。こうした中で、債券市場では、すでに9月のFOMC会合(19~20日)までの利下げ開始が織り込まれている。
筆者は、以下のような思惑が、債券市場での早期利下げ期待を強めていると考える。「金融システムを揺るがせたFRBの判断ミスは明らかだ。それと同様に、利下げからも距離を置いているFRBの判断も誤りだ。よって、『利下げは考えない』との姿勢も早晩変わるはずだ」――。このFRBと市場参加者の認識ギャップは無視できない。
もし、今回の銀行問題をきっかけに、リーマンショック時に匹敵するような大きな経済ショックが起きれば、現在FRBを疑ってかかる債券市場の思惑が実現することになるだろう。ただ、今後は銀行の信用仲介機能が引き締め的に作用するだろうが、このことはアメリカの経済成長を徐々には押し下げても、経済活動が急激に冷え込む可能性は低いとみられる。
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