テスラ、中国市場で「不意打ち値上げ」の深謀遠慮 値下げ期待を打ち消し、買い控えを防ぐ思惑か

✎ 1〜 ✎ 28 ✎ 29 ✎ 30 ✎ 最新
拡大
縮小
テスラは中国で5回の値下げの後、予期せぬ値上げに踏み切った(写真は同社ウェブサイト)

アメリカのEV(電気自動車)大手のテスラは5月初旬、中国市場で販売している4車種の値上げを発表した。具体的な値上げ額は、上海工場で現地生産している「モデル3」と「モデルY」が2000元(約3万8900円)。アメリカから輸入している「モデルS」と「モデルX」が1万9000元(約36万9500円)だ。

今回の予期せぬ値上げは、中国の業界関係者の驚きを誘った。と言うのも、テスラは2022年9月以降、中国で5回の値下げを実施しており、今後も値下げを続けるとの見方が主流だったからだ。

これまでの値下げの背景には、上海工場の生産能力に対する相対的な受注不足があった。テスラは2022年半ばに上海工場の増強を完了したが、中国市場での販売の伸びがそれに追いつかなかった。

同社はアメリカやヨーロッパでも生産能力を急拡大させており、工場の稼働率を維持するため、世界の主要市場で値下げを敢行。4月19日に発表した2023年1~3月期決算には、その効果が如実に表れた。同期のグローバル販売台数は42万3000台と、四半期ベースで過去最高を記録した。

しかし代償も大きかった。1~3月期のテスラの純利益は前年同期比24%減少。粗利益率は19.3%に低下し、アナリストの事前予想を大きく下回った。

上海工場の輸出拡大も一因か

テスラの中国事業も状況は同じだ。1〜3月期は販売台数が大きく伸びた反面、利益率が低下していた。そんななか不意を突いて発表された値上げについて、業界関係者の間では「値下げが所期の効果を達成したため」との見方が広がっている。

「リチウムなど車載電池の原材料価格が急落しており、多くの消費者が『テスラはさらに価格を下げる』という期待を抱いていた。今回の値上げは現地生産車に関してはわずかであり、消費者の大きな負担にはならない。真の狙いは、『これ以上の値下げはしない』というシグナルを送る(ことで消費者の買い控えを予防する)ことにあったのだろう」

財新記者の取材に応じたある業界関係者は、自身の解釈をそう語った。

本記事は「財新」の提供記事です

そのほかにも、上海工場が余剰生産能力の新たな振り向け先を確保したことを、値上げの背景の1つと見る向きもある。上海工場は中国国内向けの生産と同時に、以前からヨーロッパ、日本、オーストラリアへの輸出を担ってきた。2023年からは、そこにタイ、マレーシア、カナダなどが加わった。

(財新記者:安麗敏)
※原文の配信は5月6日

財新 Biz&Tech

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ザイシン ビズアンドテック

中国の独立系メディア「財新」は専門記者が独自に取材した経済、産業やテクノロジーに関するリポートを毎日配信している。そのなかから、日本のビジネスパーソンが読むべき記事を厳選。中国ビジネスの最前線、イノベーションの最先端を日本語でお届けする。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
自動車最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT