「出勤前にお腹が下る」腸の中で起きていること ストレスの判定は腸内細菌が実は行っている

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このようなストレス応答(ストレスに対応する防御のしくみ)に腸内細菌が関与していることを世界で初めて明らかにしたのが、九州大学の須藤信行博士らの研究チームです。

2004年、須藤博士は腸内細菌をまったくもたない無菌マウスと、通常のマウス、そしてビフィズス菌やバクテロイデス属の細菌(体の抵抗力が弱っているときに病気を引き起こす細菌を含む)など、特定の腸内細菌だけを持つマウスを使い、ストレス応答が腸内細菌によってどのように影響を受けるかを、調べてみました。

ビフィズス菌を持っているとストレスはどうなる?

すると次のような結果が明らかになりました。

①無菌マウスは、通常マウスより、ストレス反応が過敏であること

②バクテロイデス属の細菌を持つマウスのストレス反応は、無菌マウスと同程度に過敏であること

③ビフィズス菌を持つマウスのストレス反応は、通常マウスと同じ程度に低い

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さらに、無菌マウスでは通常飼育マウスに比較して、拘束してストレス与えたことで生じたACTH(副腎皮質刺激ホルモン)およびコルチコステロンの上昇反応が有意に亢進することを見いだしています。コルチコステロンとは、ACTHによって分泌がコントロールされているホルモンの一種で、ストレス状態にあると分泌されるものです。

また、このACTHおよびコルチコステロンのストレス反応の亢進は、バクテロイデス菌(バクテロイデス・ブルガダス)を移植したマウスでは無菌マウスと同じでしたが、ビフィズス菌(ビフィドバクテリウム・インファンティス)を移植したマウスでは通常環境飼育マウスと同程度まで反応が減っていました。

つまり、ビフィズス菌はマウスの過剰なストレス反応を腸脳相関で介して抑制することが示されたわけです。以上のように、腸内細菌は体が成長した後のストレス反応や脳内の神経成長因子に影響することは明らかです。

内藤 裕二

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京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学。昭和58年京都府立医科大学卒業。平成13年米国ルイジアナ州立大学医学部分子細胞生理学教室客員教授、平成21年京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学准教授。平成27年より同学附属病院内視鏡・超音波診療部部長。

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