中国の夜行列車が高速化時代でも増える理由 最長列車は5000㎞、車中泊も当たり前なのに

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これは中国政府が価格抑制政策の一環として、鉄道運賃をコントロールしてきたためだ。この状態が今後も続けば、夜行列車の利用者は増えることはあっても減ることはないだろうが、物価が上昇傾向にある中で運賃の上昇を抑えれば、収支が悪化するのは明らか。実際にそれが問題化している。

そのため、貨物運賃は政府が価格を決定する方式(認可制)から、価格を「指導」する方式(指導制)に移行しており、消費水準などにあわせた運賃設定が可能になった。

長旅が定着、時間より快適性求める中国人も

これにより貨物運賃は値上げされている。旅客運賃もいずれ指導制に移行する可能性はあり、何氏は「仮に指導制に移行したとすれば、在来線の旅客運賃も消費水準にあわせて値上げされるだろう。夜行列車の状況も少し変わるのではないか」と分析する。

ほぼ満員に近い硬臥車の車内。夜行列車の盛況はこれからも続くのだろうか

その一方で、何氏は「運賃が上がっても夜行列車は残り続けると思う」と話す。「中国人にとって、列車で夜を越して目的地に向かうというのは、移動スタイルとして完全に定着している。旅行とはそういうものだという意識が根付いている。それゆえ、所要時間の長さを気にする人は少ないが、移動中の快適性、たとえば乗り物内の広さや、乗り継ぎの回数を気にする人は多い」。

確かにそう考えると、車中3泊に及ぶような夜行列車が運行されているのも納得できる。飛行機は移動中、常に狭苦しい座席に押し込められるし、空港へのアクセスも含めれば乗り換えの回数が多くなる。時間はいくらかかかってもいいから、移動中の快適性を強く求める人が多いということかもしれない。

だとすれば、鉄道の運賃が飛行機を超えるくらいにならない限り、夜行列車が大きく衰退することはないのかもしれない。

草町 義和 鉄道プレスネット 記者

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くさまち よしかず / Yoshikazu Kusamachi

1969年新潟県南魚沼市生まれ。鉄道ニュースサイト『鉄道プレスネット』を運営する鉄道プレスネットワーク所属。鉄道誌『鉄道ファン』『鉄道ジャーナル』などでも記事を執筆。著書に『鉄道計画は変わる。』など。

 

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