「徘徊のつもりない」認知症の人から見える世界 当事者はゴールだけを見ているとは限らない

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認知症になると、巨大なミラーハウスに迷い込んだ感覚に陥り、外出中に急に道がわからなくなることがある。それがたとえ慣れ親しんだ場所であったとしても、自分がどこにいるのかわからなくなってしまうのだ。

「今いる場所がわからなくなったとき、皆さんはどうしますか? おそらく、普通の健康な人であれば、歩いている人に聞くと答えるのではないでしょうか」と客席に問いかけると、確かにそうだなと多くの人が頷いていた。

認知症の人に声をかけられたら

「ここでちょっと想像してください」と、一呼吸置いて話し始めた杉山さんの声に、一層の力が入ったのがわかった。

「私のような若年性認知症の人間が、道端で見ず知らずの人に、『すみません。ここは一体どこですか?』と声をかけたとき、どんな反応が返ってくると思いますか。『急に変な人に声をかけられた』と思い、皆さんが足早に去って行く姿は想像に難くありません。皆さんが思っているほど、私たちは気軽に道を聞くことはできないのです。そもそも、聞ける世の中になっていないのです」と訴える杉山さんの言葉には、想像もしていなかった世界が広がっていた。そんな聴衆の気持ちを表すかのように、客席は重い静寂に包まれてしまった。

認知症の方は、恥ずかしいという気持ちが強く残っていて、道行く人に尋ねることができないケースが多い。また、認知症を患っている方が身近にいない人にとっては、認知症の方から急にここはどこ? と聞かれたら、不気味だと思うこともあるだろう。

杉山さんは、この静まりかえった状況に怯むことなく話し続けた。

「私は歩いている最中に道が分からなくなったとき、真っ先にコンビニに駆け込みます。店員さんに、『ここはどこですか? こっちに行きたいんだけど、どうすればいいですか?』と尋ねると、必ず教えてくれるのです。そう、私はただコンビニを探して歩いているだけなんです。それなのに、ボケて徘徊していると思われるのはちょっと悲しいですよね」と残念そうに語った。

これまで私は、認知症の方はてっきりゴールだけを見ている、つまり家を探して彷徨っているとばかり思っていた。しかし、目的地に向かうためのポイントを探している場合もあるということを知った。

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