山梨県「人口当たり寿司屋の数全国1位」のなぜ 海なし県ゆえの海産物への憧れだけではない
私にとって甲府はもう何度も訪れた馴染みの街だが、この土地はほかにはない独特な風土があるように思う。山がちな内陸であるにもかかわらず、山梨県の人口当たりの寿司屋の数は全国1位、マグロの消費量も全国2位(1位は静岡県)というのには驚かされるが、これを支えているのは、海なし県ゆえの海産物への憧れだけではなく「無尽」の存在であるようだ。
無尽とは古くは相互扶助を目的とする民間金融の仕組みだったのだが、いつしか飲み会や旅行などを目的として積み立てをするものへと変質して今日に至っている。山梨では、本当にそこらじゅうで、この無尽が開催されているのである。甲府の飲食店で話を聞くにつけ、この無尽(の二次会)がなければ商売あがったりとのことだった。
「健康寿命」も男女とも全国第1位
じつは山梨県の「健康寿命」は男女ともに過去3回の調査平均で全国第1位なのだ。健康上問題なく生活できる(介護や支援を必要とせず日常生活に制限のない)自立期間が、それだけ長いということを意味している。
それは歳をとっても無尽の集まりでいろいろなところへ出かけてゆき、さまざまな人と会うのが日常になっているからではないかとある地元の経営者が話していたのが、とても印象に残ったのだった。
政治学者のロバート・パットナムは『哲学する民主主義(Making Democracy Work)』(邦訳、NTT出版)という本のなかで「社会関係資本(social capital)」という概念を提唱している。
ざっくり言うと、人びとのつながりを支えるような仕組みが、市民的活動(デモクラシー)を効果的に活性化させるという話だ。ある種の組織化された相互扶助である「無尽」は、まさにこの社会関係資本であると言えるだろう。
近年では、このような社会関係資本が社会における健康規定要因となっているという研究も盛んに行なわれているが、山梨県の健康寿命は、それを証明するものであるようにも思われる。
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