「神」「ヤバい」…現代人の言葉の貧困化が招く末路 言葉が「減っていく」ことは何を意味するのか

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「読む」をすっ飛ばして表現しようとするのは、相撲取りが四股を踏まずに番付を上げようとしたり、ボクサーがロードワークをサボってタイトルを狙うようなものです。言い換えれば、自分の感じていることや考えたことをSNSに書いたり、だれかに話したり、人前でプレゼンしたりといった「発信」は、後回しでいい。「読む」というトレーニングを通じて力を付け、自分の軸を作り上げてからでいいのではないでしょうか。

読みたいものを読めばいい

ここまで読んで、「読み方を身につけないといけない理由はわかったけれど、じゃあ何を読めばいいの?」と戸惑う人も多いでしょう。読む対象は、身の回りにある普通のものでOKです。「××新聞じゃないとダメ」「この名著リストを上から順番に」なんて、うるさいことは言いません。

ただし、手に取るなら「本気で書かれたもの」にしてください。つまり、だれかが頭をひねり汗をかいて作り上げた文章です。本でもネットでもいいけれど、「手抜き仕事」にはなるべく関わらないようにする。 目の前にあるテキストは、自らの時間とエネルギーを費やして読むに値するものかどうか――。この意識をつねに持ち続けてください。

そのうえで、これから皆さんにやってもらいたいのは、日常的に触れる文章との関わり方を変えることです。ちゃんと読むことで表現の土台となる「文字を扱う力」を養っていくのは、同時に何かを真剣に考えることでもあります。

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最終的な目標は、自分の頭の中にあることを自分で納得のいくかたちで表現できるようになること。何か文章を書いたり、人前で考えを発表したりといったとき、「自分で考えたことを自分の言葉で表現できた」と思えれば、それで十分です。「いいね」や閲覧数より、自らの感覚を大切にしてください。

「今回の表現は、以前より確実に前に進んでいる」

「目的に合わせて中身のある発言ができたと思う」

「ほんとうに書くに値することを自分の言葉で書けた」

このような手応えが得られれば、間違いなく自信になる。そんな意識や心の余裕は、読む側・聞く側にも伝わるもので、周囲の反応や評価も変わってきます。

このことは、私たちを取り巻くネット空間の知的退廃、それにSNSでの受信と発信の繰り返しに空虚や閉塞を感じ取っている人にとって、「人生が変わる」といっていいほどのインパクトがあるでしょう。

奥野 宣之 著作家・ライター

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おくの のぶゆき / Nobuyuki Okuno

1981(昭和56)年、大阪府生まれ。同志社大学でジャーナリズムを専攻後、出版社、新聞社勤務を経て作家・ライターとして活動。読書や情報整理などを主なテーマとして、執筆、講演活動などを行っている。『情報は1 冊のノートにまとめなさい[ 完全版]』『読書は1 冊のノートにまとめなさい[ 完全版]』(以上、ダイヤモンド社)、『学問のすすめ』『論語と算盤(上)自己修養篇』『論語と算盤(下)人生活学篇』(以上、致知出版社「いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ」現代語訳)など著書多数。

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