また、製造業では、IT機器に顕著に見られるように、「水平分業」の方式が進展しつつある。これは、一つの製品を全世界のさまざまな企業が一部分づつ分担して生産する方式だ。水平分業化を進めているアップルは、今回の日本での災害によって、部品調達に支障が生じる可能性があるとした。ただし、調達先を韓国やアメリカのメーカーに切り替えることも可
能だという。
最近の日本企業が展開しようとしている戦略は、アジア地域の中間層の需要を取り込もうというものだ。しかし、それでは、低価格競争に巻き込まれて、日本企業が疲弊する。
本来目指すべきは、他でもない日本国内の需要なのだ。これこそが日本企業が最も得意とする分野であるはずだ。
こうした変化が生じれば、日本国内での雇用は失われる。ただ、今後数年間は、東北地方で社会資本や住宅を復旧するための仕事が増えるので、かなりの雇用が創出される。その間に、国内でサービス産業を立ち上げ、新たな雇用を創出すればよい。これは、本連載で主張してきた方向である。電力コスト上昇と円高がそれが加速するのだ。
日本での生産条件が厳しくなるといっても、日本からすべての製造業がなくなるわけではない。優れた技術力を持つ企業は、世界的な水平分業のネットワークに参加し、日本で生産活動を行えばよい。ただし、それは電力コストの上昇にも円高にも耐えることができる企業である。
海外で企業があげた利益が日本に送金されれば、国際収支では、所得収支が増える。それが増加する輸入を賄って、経常収支の悪化を防ぐことになる。日本から失われるのは、労働者に対する賃金と生産地での地代、それに現地国に支払う税である。
海洋国家日本の特性を活かすべきだ
日本人が使うものを海外で作って日本に運ぶのは、一見すると非効率にも思えるが、そうではない。