一般に賃金には下方硬直性がある。基本給(ベース、所定内給与)は固定されていることが一般的で、労働時間が減少しても減ることはないとみられる。
一般労働者の所定内労働時間は、「働き方改革元年」といえる2018年以降に減少し始め、コロナ禍がピークを過ぎても減少したままである。所定内の労働時間が減少したことに由来する時給換算した所定内給与の増加は、賃金の下方硬直性によって生じている現象を見ているだけの可能性がある。
賃金の下方硬直性とは、企業は賃金を下げたくても下げられない状況で生じる現象であることを考えると、前向きな賃上げとは程遠いだろう。
企業が前向きな賃上げをしていなくても、労働者としては時給が増加すれば満足だ、という結論もあり得る。賃金が維持されながら労働時間が減少しているのだから、空いた時間を消費活動に充てれば、経済は拡大(好循環)していく可能性もある。
しかし、働き方改革が進んだ背景の1つに「共働きの増加」といった社会構造の変化があることには注意が必要である。
仕事の時間が減った分、増えた家事
日々の生活時間などを調査した総務省の社会生活基本調査によると、「正規の職員・従業員」が「仕事」に費やす時間(1日当たり)は、2006年の431分から2021年の403分に「28分減少」した。働き方改革の成果といえる。
一方、「家事関連」(家事、介護・看護、育児、買い物の合計。定義は総務省)に費やす時間は同57分から同80分に「23分増加」した。「仕事」がほぼ「家事関連」の時間に置き換わった格好である。
GDP統計の在り方を議論するときに頻繁に話題となるのだが、現行のSNA統計では「家事労働」はGDPに含めない(家事労働は付加価値を伴ったサービス消費とみなされない)。
例えば、「家事労働」を清掃業者などに外注すればサービス消費としてGDPに計上されるのだが、同じことを自分でする場合には付加価値にみなされないのである。
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