「岸田首相襲撃事件」1年前の悲劇と何が違ったか エリートSPの適切な動き、見直された警護要則
警備を担当する警察官は本来、一目でそれとわかる制服警察官と、私服警察官に分けて配置される。警視庁の場合、私服警察官にはカジュアルな服装とスーツ姿の2種類を配置している。
犯人は制服やスーツ姿の警察官にだけ警戒するので、一般観衆と見られる私服の人たちが多い場所から犯行に及ぶことが多い。その際、いち早く確保に動けるようにするため、カジュアルな服装の警察官が観衆に紛れ込むのだ。
今回の映像を見ると、爆発物が投げ込まれてから犯人確保まで、漁師の男性が真っ先に動き、その後少ししてスーツ姿の警察官が取り押さえに来ている。つまり、カジュアルな服装をした私服警察官はそばにいなかったのではないか。当日、どれくらい配置されていたのか、その検証も必要だろう。
また、今回の映像の中で、岸田首相を庇ったSPがとっさに爆発物を蹴った際、観衆のほうに爆発物が飛んできていることが一部話題となった。「SPの警護対象者は岸田首相なので、岸田さんだけ守れたらいいと考えている」といった意見がネット上にも見られたが、それは極論だ。
確かにSPの警護対象者は岸田首相である。しかし、だからといってその他の人の安全を脅かすようなことは決して推奨されていない。今回はたまたま起こってしまったことだ。対象者を守った後の会場の安全はSPではなく、現場の警備員が担当する部分である。
警備しやすい反面、危険な地形だった
今回はSPや集まっていた一般の方の動きが素晴らしかったことで、大惨事を逃れたが、野外の応援演説にはやはり危険が伴う。安倍元首相の事件が起こってしまったのは、往来の多い道路の真ん中で、後方の警戒が不十分だったため、容疑者の接近を許したことが最大の原因だと調査結果が出ている。
今回の演説場所についても、一長一短がある場所のため、必ずしも安全ではなかったと筆者は考えている。
岸田首相が訪れた和歌山県の雑賀崎漁港は、イタリアの景勝地・アマルフィのように美しいと評判で、新鮮な魚に舌鼓を打てる素晴らしい土地だ。もちろん、この場所に罪はない。ただ、要人の演説地としてはどうだったか。
出島のようにせり出した地形は、規制線が張りやすく、警備しやすい長所がある。しかしその反面、今回のようなことが起こった場合、逃げ道が1つになってしまう短所もある。また、周りが高台で、廃屋も含めて家や道路がたくさんあるので、スナイパー対策にも気を遣う場所だ。
新警護要則に基づき、演説地は検察庁と都道府県警が合同で現地視察を行って安全を確認しているが、今回の漁港は、通常、応援演説が行われる場所ではなかったため、和歌山県警単独の調査だったという。この点も問題はなかったか、今後調査されることだろう。
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