「岸田首相襲撃事件」1年前の悲劇と何が違ったか エリートSPの適切な動き、見直された警護要則

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また今回、応援演説で全国を回るにあたり、念入りな警備計画がなされている。安倍晋三元首相の銃撃事件を受けて、昨年、30年ぶりに刷新された「新警護要則」に基づいた計画だ。都道府県警が警備計画作成を行う段階から警備実施に至るまで、警察庁が深く関わるようになった。今回も、和歌山県警が提出した警備計画を同庁が事前に確認していたという。

加えて、従事するSPのスキルや連携体制も、研修や訓練を通して、この1年で格段に強化されている。筆者は事件後に現場に赴いたが、話を聞いたり、映像を見たりする限り、SPと警備員の数は従来より確実に増えている印象を受けた。

そもそも、現役の総理大臣を担当するSPはエリート中のエリートだ。その条件には、身長173㎝以上、裸眼視力1.0以上、柔道か剣道のどちらか3段以上、逮捕術上級、けん銃上級、英検2級以上の英語力が必要とされている。常に身体と警護技術を磨き続けなければならない。

岸田首相にはそうした警視庁のエリートSPが5人以上つき、今回は加えて和歌山県警の警護員が最低でも10人以上はついていたと見られる。あの機敏な動きを見ても、かなりの訓練を受けたSPがついていたことがわかる。

現役を退いた総理大臣経験者には、本人が辞退しない限り、同行SPは1人。安倍元首相の事件の際には、警視庁のSPが1人と奈良県警の警護員がついていた。現役総理とは、その人数や厳重さが違っている。

現場の警備員には課題があった

SPは対象者(今回でいうと岸田首相)のみの警護にあたる。「SPが犯人を取り押さえるのが遅かった」という意見も散見されるが、対象者から離れた場所にいる犯人を取り押さえるのは、SPとは別に配置された現場警備に従事する警察官の役割だ。

現場警備の警察官は、今回は80〜100人ほどはいたと推察される。彼らは会場全体の安全を確保するため、周囲の人や交通の警備、スナイパーなどの対策として高所警戒を務めることになる。

実は今回、SPの動きは完璧だったが、この警備については課題があったと筆者は考える。会場全体の安全を確保する役割の彼らは、何より避難誘導をしなくてはならなかった。しかし、爆発物が投げ込まれてから爆発音がするまで約50秒、その間「逃げて」という声は1度だけしか聞こえず、周囲の人たちはスマホで撮影するなど警戒心がない状態だった。

爆発音が上がってから避難誘導が始まったが、それでは遅い。今回は爆発威力の小さいものだったのでよかったものの、本来死傷者が出てもおかしくはない状況だった。

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