ジャニーズ主演「だが、情熱はある」への"違和感" 「お笑い青春エンタメ」とは違う"新しさ"の秘密

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何者でもないことにもやもやしている若林と山里は、離れた場所にいても、時空を超えて共鳴する。

高校時代、「若林はおもしろいのか」を巡って教室で乱闘が起こるなか、屈折した若林は「俺は全然おもしろくない」と全力でジャンプしながら叫ぶ。ときを同じくして、何者かになりたいと主張する山里は父に向かって、「俺は自分のことをおもしろいと思っている」のだと叫ぶ。そこにはなんともいえない詩情があった。

彼らを取り囲む人たちとして、白石加代子、薬師丸ひろ子、光石研などの河野作品の常連俳優もいて、主人公たちをあたたかく包んでくれてほっこりするし、そして河野作品は音楽の使い方もいい。

「野ブタ。」の主題歌は『青春アミーゴ』が大ヒットしたし、『フランケンシュタインの恋』では、はじめてドラマ主題歌を手掛けたRADWIMPSの楽曲が採用された。音楽がドラマに寄り添う。『だが、情熱はある』では、ブルースデュオ・T字路sを起用している。

これで名作になるお膳立ては完璧だ。あとは、主人公たちである。

森本慎太郎、高橋海人の真価

山里を演じる森本慎太郎、若林役の高橋海人ともに、第1話が放送されるやいなや、似ているという声があがっていた。

森本はフレームの小さな赤い眼鏡という圧倒的な小物を味方につけ、ビジュアルを寄せている。森本は『泳げ!ニシキゴイ』ではスキンヘッドの長谷川を演じていた。かつらではあるが、スキンヘッドに果敢に挑んだあと、今回は眼鏡の山里へ、明確に作り込んでいく。

対して、高橋はビジュアルは正直あまり似ていないのだが、仕草や口調を研究しているようだ。つぶらな瞳の若林とまったく違う大きな瞳が印象的な高橋ながら、ナイーブな仕草と口ぶりでその違いを時折忘れさせる。

どちらにもこの役にかける並々ならない思いを感じる。アプローチは違うが、内なる情熱に共通するものがある。それぞれに違う、でも確実に持っている熱こそが、見る者の心を動かす。わかりにくくても、ちょっと変わっていても、その内に燃える炎は世界を変えるのだ。

なぜか、水卜麻美アナのナレーションの語り口だけがAIかと思うようなクールさであるが、きっとここにも情熱はある。

木俣 冬 コラムニスト

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きまた ふゆ / Fuyu Kimata

東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。

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