ジャニーズ主演「だが、情熱はある」への"違和感" 「お笑い青春エンタメ」とは違う"新しさ"の秘密

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別々の高校で笑いに目覚めていく若林と山里。2人の主観の2本立てでドラマは進む。このチャレンジには前例がある。2022年に、朝の「ZIP!」内で放送された、5〜7分間ほどのショートドラマ『泳げ!ニシキゴイ』である。

M-1グランプリ2021の優勝者・錦鯉がいかにしてここまでに至ったか、長谷川雅紀、渡辺隆、両家の様子をホームドラマ形式として描いたドラマで、プロデューサーも脚本家も『だが、情熱はある』と同じ。森本慎太郎も出ている。この方法論に手応えがあったからこそ、日曜ドラマにも持ち込んだのであろう。

南海キャンディーズの物語でもなく、オードリーの物語でもなく、「たりないふたり」を軸にすることで、結果的に、南海キャンディーズとオードリー、2組の関わりも描かれることになる。要するに、1組の芸人ものではなく、2組を描くことで、芸人の世界の多様性を見つめることが可能になるのだ。個々の狭い世界をいくつも並列して描いていく。それはこのドラマの長所にも短所にもなるだろう。

優れた制作陣によって「名作」のお膳立てはできた

短所とは、前述したわかりにくさによるもので、長所とは、個人個人の大切なものが細分化されて、独特なものになればなるほど、おもしろいし、叙情的で、かえって普遍性のあるドラマになるであろうということだ。

なぜそう期待できるかといえば、プロデューサーが日テレの叙情ドラマの第一人者・河野英裕がプロデューサーとして参加している点である。

彼がこれまで制作したドラマは、木皿泉脚本の『すいか』『野ブタ。をプロデュース』『セクシーボイスアンドロボ』『Q10』、大森美香脚本の『マイボスマイヒーロー』、岡田惠和脚本の『銭ゲバ』『泣くな、はらちゃん』『ど根性ガエル』、西田征史脚本の『妖怪人間ベム』、大森寿美男脚本の『フランケンシュタインの恋』と、優れた作家と丹念に脚本づくりに取り組んで良作を手がけてきた。

2000〜2010年代、ドラマが良作を生み出していた時代のトップランナーなのである。

一時期、映画制作部で映画を作っていたが、ドラマ制作に戻ってまたドラマを作っている。前述の『泳げ!ニシキゴイ』もその一作である。

シェアハウスものから学園もの、SF、ファンタジーとジャンルは多彩なのだが、共通するのは、ちょっと生きづらい人たちの物語であること。世間一般のノリからこぼれた人と人が出会って、おずおずと不器用ながら助け合っていく話なのである。1人ひとりの大事なものは儚くて、壊れやすい。だからこそそれが分かち合える人たちは、慎重に互いに気遣い合う。その細い糸を大切にする気配が『だが、情熱はある』にもあった。

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