残念なことに、以上で述べたことは、日本では「書生論」とみなされる。つまり、現実を無視した原則論に過ぎないとされる。
いまの日本では、原則論では物事は進まない。財源問題については、とりわけそうだ。子育て政策のために本来使われるべき財源である消費税について、岸田文雄首相が「消費税は10年程度は上げることは考えない」と明言しているからだ。消費増税の議論が封印されたままでは、財源探しは迷走せざるをえない。
他の税目にしても、増税を提起すれば大反対が生じるのは、目に見えている。だから、できるだけ目につかない方法で財源を調達しなければならない。社会保険料の引き上げは、あまり注目を集めないので、やりやすいと判断されているのだろう。
本来、国民の間で十分な議論が行われるべき重要な問題について、できるだけ議論がされない方法を探っている。
書生論を繰り返せば、これは財政民主主義の根幹にかかわる大問題だ。
子ども・子育て拠出金という大問題の制度がすでにある
現実の日本の財政制度には、以上のような大問題を抱えた財源が、子育て予算にすでに使われている。健康保険の保険料に上乗せしようとするのは、この延長線上にある発想なのだ。
大問題を抱えた財源とは、「子ども・子育て拠出金」である。これは、会社や事業主から「社会全体で子育て支援にかかる費用を負担する」という名目で、従業員の厚生年金保険料とともに徴収されているものだ。
これは保険料なのかといえば、年金給付の財源になるわけではないので、保険料ではない。では税なのかといえば、税法に基づいて徴税機構が徴収するわけではないので、税でもない。性格がまったくはっきりしない。
拠出金額は、従業員数から計算される。従業員に子どもがいるかどうかは関係ない。独身であっても、厚生年金加入者全員が対象となる。社会保険料は雇用者と従業員が折半で負担しているが、この拠出金は、全額を雇用者が負担する。
なお、国民年金ではこのような負担はない。だから、公平性の点でも大いに問題だ。
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