なか卯、「親子丼を40円値下げ」戦略の超したたか 利益を吐き出すことになっても宣伝効果は甚大だ

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さて今回の「なか卯」の「逆張り」だが、この3つのポイントを見事に押さえている。最初の「商品の性質」に関しては、説明不要だろう。2つ目の「大義」だが、読売新聞の取材に対し、「なか卯」の広報は値下げの理由として以下のコメントをしている。

「看板商品の親子丼をより多くのお客さまに楽しんでもらいたい」

「より多くのお客さまに楽しんでもらいたい」とは、ビジネスの言葉に置き換えれば「売上を増やしたい」でもあるのだが、広報としての言葉はあくまで「お客さまのため」なのだ。

「4月1日」ではなかったのも巧みだった

そして最後のポイントが、タイミングだ。4月といえば、新年度の始まりでもある。4月1日を区切りとして、多くの企業が値上げに踏み切った。

今回の「なか卯」の発表のタイミングだが、単に「値上げラッシュ」に重なったというだけではない。発表日の設定も絶妙だった。プレスリリース配信サイト「PR TIMES」で値下げを発表したのが、4月5日(水)11時。実際に値下げが行われるのは、その翌日・4月6日(木)からだ。

ここで素朴な疑問が沸き起こるのではないか。それは「4月1日というキリの良い日からの値上げではなく、なぜ、5日に発表したのか」という点だ。長年、ニュースと広報に携わっている私の眼には、この発表日の設定こそ、露出効果を最大化するための「細やかだが、重要な工夫」に映る。

4月「1」日は、メディア露出を狙う企業にとっては、「最も競争の激しい1日」だ。定番の「一風変わった入社式や入学式」、「新年度から施行される新たな法制度」、「新商品発表会」など、「ニュースの素材」が目白押しだからだ。「新年度の定番ネタ」を押しのけて、自社の情報を取り上げさせるのは並大抵では無理なのだ。

自社情報をメディアに取り上げさせたい企業からすると、「ニュース目白押し」の4月「1」日ではなく、ひと段落した「5」日のほうが扱いが大きくなりやすいのだ。私は現在、企業の広報を支援しているが、特段の事情がなければ、4月「1」日の発表は避けるようアドバイスしているほどだ。

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