山縣有朋、西太后ら「悪役」は本当に悪いのか 浅田次郎が語る「日本の運命」<中>

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史実には善悪も、右も左もない。もともと世の中に善と悪はそれほどきっぱりとない。自分に不利益を及ぼすやつ=悪、自分に利益を及ぼす人=善という判断なのだ。それが絶対的な倫理的な善と悪かといったら、それは違う。個人の考え方を歴史に援用してはいけない。

――あえて大正期について言えば、楽しい時代だった?

世界的に見れば一瞬のことだ。第一次大戦が終わって、さあ軍縮だといった時代はいい時代と言えよう。国際ペンクラブもできたし。

自由の弾圧が戦争を招いたと考えた文筆家たち

言論・表現の自由が弾圧されたから戦争が始まったという、文筆家たちの考えは当たっていると思う

国際ペンクラブができたのは第1次大戦の直後。これは英国で提唱された。どうしてこんな戦争になったのか。文筆家が集まった。欧州では文筆家は世の中のことを語るのがひとつの資格。これは言論・表現の自由が弾圧されたからこんな戦争になったのだという結論になった。これは案外、当たりと言っていい。自由に書けなくなる。批評ができなくなる。反対ができなくなる。というところから、国家の暴走が始まって、国家の利益だけに走れば、戦争になる。それに気づいて世界に広く呼びかけて、ともかく言論・表現の自由を保障する団体を作ろう。これが国際ペンクラブというものになった。

それから十数年後に、日本も賛同して島崎藤村が会長になって、ブランチとして日本ペンクラブができた。運動が盛り上がったのは第1次大戦後の極めて平和な時代。だからこそ、そういうことを考えることができた。フランスでは個性的な画家が多く活躍したエコール・ド・パリの時代。文化が成熟していた。戦争があると科学は飛躍的に発展するが、芸術、文化は退行する。平和の時代はその逆だ。

日本では、大正の後半から昭和のちょっと初めの時期にあたる。モボ・モガ(モダン・ボーイ、モダン・ガールの略)が闊歩した時代に重なる。タイムスリップして見てみたいほどだ。今と比べたらずっと格差社会であったろうし、農村はもちろん貧しかっただろうが、とにかく軍縮。かつて軍縮時代があったかといったら、あの時期しかない。壊滅した瞬間はあったにはあったが、あとは増大の一途。一瞬、軍人の権威もなくなったらしい。

(写真:梅谷秀司)

※続きは4月20日(月)に公開予定です。

塚田 紀史 東洋経済 記者

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つかだ のりふみ / Norifumi Tsukada

電気機器、金属製品などの業界を担当

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