HBSでは優れた戦略をたった1つの図で考える ケース問題「従業員のES向上で売上を伸ばせ」

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もう1つ事例を紹介しましょう。中国のオンラインショッピングモールでありアリババの創業者、ジャック・マーが立ち上げたタオバオは、創業当時、圧倒的強者であったイーベイに対し、中国市場に特有な事情、すなわち、決済しても出品者が本当に商品を送ってくれるかどうかという不安を取り除くためにアリペイを利用し、出品者が実際に商品を発送した後に決済できるように工夫しました。

また、出品者に国家身分証明書での登録を求め、出品者の身元がわかるという安心感を与えるようにしました。このような少しの工夫によって、顧客のWTPを劇的に高めて数年後に市場を制覇し、イーベイは中国市場から撤退することになったのです。

このような工夫は、画期的な技術開発や斬新なアイデアを必要とするものではありません。むしろ、実情に問題意識をもって精通することで明らかになることをつかみ取った結果なのです。価値創造とは、このような小さな工夫の積み重ねによって実現されるものであり、こうした知恵こそが戦略の成功を決定づける鍵となるのです。

価値創造の鍵はシンプルさにある

WTP、WTSという2つのレバーから構成されるバリューベース戦略の成功の鍵はそのシンプルさにあります。

戦略といえば、マイケル・ポーターのコストリーダーシップ戦略、差別化戦略、デイビッド・ティースのダイナミック・ケイパビリティなどの概念が有名です。しかし、これらは抽象度が高く、企業のある部署が行っている活動が、どのような点でたとえば差別化戦略につながっているのか、ダイナミック・ケイパビリティを生み出しているのかを評価することは困難です。

しかし、オーバーホルツァー・ジーが主張するバリューベース戦略にしたがうと、特定の活動がWTPを高めることに関連しているのか、あるいはWTSを低くすることに関係しているのかを判断することが容易です。

そして、WTP、WTSのいずれにまずは特化するのかを決め、これらのレバーのサブ活動を特定し、優先順位を決めて何をすべきかを明確化していくことができます。これによって、多様な活動を統合し、整合性のとれた戦略的な動きを生み出し、その結果として価値創造を実現していくことが可能になるのです。

こうしたことが可能なのは、戦略の定義のシンプルさにあります。「優れた戦略はシンプルである」、それがなぜ優れているかといえば、シンプルさが行動の俊敏さ、多様性、戦略の首尾一貫性を生み出すことにつながるからなのです。

原田 勉 神戸大学大学院経営学研究科教授

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はらだ つとむ / Tsutomu Harada

1967年京都府生まれ。スタンフォード大学Ph.D.(経済学博士号)、神戸大学博士(経営学)。神戸大学経営学部助教授、科学技術庁科学技術政策研究所客員研究官、INSEAD客員研究員、ハーバード大学フルブライト研究員を経て、2005年より現職。専攻は、経営戦略、イノベーション経済学、イノベーション・マネジメントなど。大学での研究・教育に加え、企業の研修プログラムの企画なども精力的に行っている。主な著書に、『OODA Management(ウーダ・マネジメント)』(東洋経済新報社)、『イノベーション戦略の論理』(中央公論新社)、『OODALOOP(ウーダ・ループ)』(翻訳、東洋経済新報社)などがある。

 

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