HBSでは優れた戦略をたった1つの図で考える ケース問題「従業員のES向上で売上を伸ばせ」

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戦略とは、この2つのレバー、すなわちWTP、WTSの動きにかかわるものです。WTPを高め、WTSを低くするための計画、行動が戦略なのです。逆に言えば、戦略を検討する際には、WTP、WTSという2つのレバー以外を考える必要はありません。これが「バリューベース戦略」と呼ばれるものになります。したがって、戦略は「価値こそがすべて」です。

少しの工夫で劇的な成果を引き出す

戦略に関するよくある間違いの1つは、価格やコスト、あるいは価値獲得の手段としてのビジネスモデルにばかり注意が向き、どれだけ大きな価値を創造するかという点がおろそかになってしまうことにあります。

既存の価値をいかに多く獲得するかに注力してしまうと、顧客やサプライヤー、従業員との間での価値の取り合いとなります。これはゼロサムゲームであり、たとえば企業が価格を上げることで利益を得れば、その分、顧客満足度を減らすことになります。

したがって、重要なのは、価値獲得ではなく、いかにして多くの価値を創造するのかという点にあります。戦略の成績は創造した価値の大きさによって評価されるべきなのです。

この価値創造は、斬新な技術的ブレイクスルーやビジネスモデルの革新がなければ実現しないというものでは決してありません。むしろ、顧客や従業員、サプライヤーの実態、生活をつぶさに観察し、少しの工夫を加えることで劇的な成果を引き出すことが可能です。

たとえば、ファッションブランドのGAPの場合、大半がパートである店舗従業員の勤務時間が頻繁に変更され、事前に予定を立てることができないという問題がありました。

GAPは、販売スタッフの生活を改善するために、サンフランシスコとシカゴの店舗を無作為に選び、勤務シフトの開始時刻と終了時刻を標準化して、毎週同じシフトで従業員をスケジュールするとともに、特別に開発されたアプリを使用して、従業員同士が勤務シフトを交換できるようにしました。その結果、労働生産性は6.8%向上し、売上はほぼ300万ドル増加したのです。

通常、従業員の生産性を上げるには、インセンティブを導入したり、研修を通じて意識改革を促したりする方法が考えられます。しかし、そのような方法をとらなくても、従業員のワークライフをつぶさに観察することで、パート従業員にとっては非常に重要である「予測可能で一貫した勤務時間」という解決の糸口を発見することができるのです。

このような工夫によって、GAPは店舗従業員のWTSを引き下げるとともに、かれらのモチベーションを高めることで接客品質が向上し、顧客のWTPを高めることにもつながったのです。

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