このリスクが本家のアメリカで臨界点を超えたのが、リーマンショックとその後の経緯であった。ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、メリルリンチなど大手の投資銀行は自己資本を厚く持ち、リスクテイクに制限のある銀行に業態を変えて、銀行規制当局の監督下に入って延命した。
「当面行儀よく」ということらしいが、中身の人間や企業文化まですっかり変わったわけではないので、どのような儲けの種になるリスクテイクをひねり出すかは、大いに注目したい。
今のところは富裕層向けの資産管理などに注力しているようだ。「ゴールベースド・アプローチ」(人生の目標達成をサポートし伴走するという触れ込みの、偉そうな営業話法のこと)を看板に掲げて、ラップ契約で一族の資産運用を丸々取り込んで手数料を稼ぐビジネスが今のところ目立っている。
例によって、日本の対面営業の証券会社やIFA(金融商品仲介業者)はアメリカ式をマネようとするのだが、お金持ちの読者は気をつけたほうがいい。「一切かかわらないほうがいい」と自信を持って申し上げておく。
「伴走」などと言うが、一生つきまとわれる気持ちの悪い営業のことなのだ。資産運用はお金を増やすだけの本来シンプルでいい行為で、高いお金を払うのは愚かだし、特別な儲け話などない。そして、伴走者はまったく余計だ
工夫して労働力商品を売っているバンカーたち
話を元に戻すと、クレディ・スイスは「投資銀行病」にすっかりやられた。あのかつては堅実を誇ったドイツ銀行も、あちこちにボロが出て不名誉な評判が立つに至っている。投資銀行恐るべし。繰り返すが、資本家も搾取されるカモなのだ。あの世にいるカール・マルクス氏に教えてあげたいところだ。
投資銀行の社員も「労働力商品」である。ただし、この商品は仕事を複雑化して専門性のバリア(障壁)を作って、資本家(=投資銀行の株主)に対して強い立場で売ることに成功している。
資本家から見ると、いかにも儲けてくれそうだし、そのためには高くても一流を選びたいし、何よりも資本を無駄に遊ばせておきたくない。金を出してしまった弱みで、立場はむしろ資本家のほうが弱いのだ。そして、巧みに仕組まれた成功報酬は、ヘッジファンドでもそうだが、情弱なスポンサーをだますのに都合のいいツールになっている。
マルクスの『資本論』の解説本などで例に出る、かつての工場労働者や、現代のブラック企業社員、あるいは簡単に解雇や取り替えが可能な非正規労働者などは、資本家側が与えた仕事のフレームワークを受け入れて、遠慮なく言えば「工夫なく労働力商品を売っている」ので、労働力の再生産もままならないような悪条件で労働力を買われているのだ。
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