さて、投資銀行ビジネスでは、どのようにして資本家を「カモる」のか。典型的には、破綻したリーマン・ブラザーズのトレーダーの立場を考えるとわかりやすい。
破綻前のリーマンのトレーダーは、(A)トレーディングが儲かれば利益に連動する報酬(主にボーナスとストックオプション)をもらい、(B)損をすればたぶんクビになるので再就職のための履歴書を書く、という条件の下でポジションを構築していた(同業他社の事情も似たようなものだったが)。
こうした条件を得られたら、読者ならどうするだろうか。「貴重なポジションをクビにはなりたくないので、慎重に時間分散してリスクを取る」と考える人は、残念ながらこの業界には向いていない。「会社の信用を使って資金を引っ張って、レバレッジをかけて社内のリスク制限基準いっぱいまでリスクを取る」のがおおむね正解なのだ。
ヘッジファンドの成功報酬もそうなのだが、リーマンのトレーダーの報酬システムは金融論的には「獲得利益を原資産とするコールオプション」なのだ。オプションの価値は主にボラティリティと称するリスクに連動して決まるので、権利としてこれを確保したら大きなリスクを取るのが錬金術の手筋になる。
投資銀行のプレーヤーは、まず成功報酬の条件を手に入れて、次に会社を利用して大きなリスクを取ることによって、高額の報酬を手に入れるのだ。
損を出したときに、昔の「代打ちギャンブラー」なら死が待っていたかもしれない。だが、現代の代打ちギャンブラーたる投資銀行マンは、大損しても命を取られない。IDカードを置いて会社を去るだけのことだ。
投資銀行の株主は資本家どころか「搾取の対象」
損を被るのは、会社の株主だ。投資銀行の株主というと金融資本の頂点にいる資本家のように聞こえるが、投資銀行ビジネスにあっては顧客と同様に搾取の対象になるカモなのである。
リスクの取り方・取らせ方は、トレーディングのポジションほど、わかりやすくない場合も多い。
例えば、引き受けやM&Aのディールでリスクを取ったり、資金を引っ張ったり、あるいは不動産の証券化商品のように顧客にリスクを取らせつつ、その際の情報提供不十分のコンプライアンス・リスクを会社に取らせるようなものもあれば、銀行の仕組みを利用してマネーロンダリング資金にかかわって利益を得るような手口もある。それぞれが複雑であり、いかにも儲かりそうでもあり、会社としても、金融監督当局としても、管理しきれるものではない。
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