「やられ損?」交通事故の賠償額は驚くほど少ない 被害者の過失が厳しく考慮され通常感覚から乖離

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高齢者は、逸失利益は認められない

私のある判決の例は、ある県で3本の指に入るといわれた腕利きの新聞販売拡張員の死亡事故に関するものでしたが、被告は、まさに重箱の隅をつつくような事細かな争い方をし、証拠からは、年収として860万円を認定するのがやっとでした。確定申告の収入額はこれよりもかなり低かったのですが、細密な事実認定を積み上げて、どうにか先のような金額を算出したわけです。実際には、年収1000万円を超えていた年もあったかもしれません。

さらに、職業をもたない高齢者の場合、逸失利益は認められず、介護費も平均余命で機械的に決められますから、全体の賠償額は、本当に、あっというほど小さくなってしまいます。ですから、年齢が高ければ高いほど交通事故にはよくよく注意すべきなのであり、同居の家族もまた、注意を怠らないようにする必要があります。

被害者の側の過失を細かく考慮

過失相殺の基準も問題です。これについては、東京地裁交通部の裁判官たちが作成したマニュアル(東京地裁民事交通訴訟研究会編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂5版〕』別冊判例タイムズ38号)が、交通事故損害賠償実務ではよく使われています。

これは、多数発生する交通事故の過失相殺について、担当する裁判官により過失相殺率にばらつきが出てしまうのを防ぎ、1つの基準を示すために作成されたものでしょう。その性格からすれば一部の裁判官の作成した過失相殺の目安にすぎないのですが、裁判実務を含む実務では広く参照されているわけです。

このマニュアルによれば、事故に関係する事実を、事故の発生状況のパターンのどれかに当てはめ、また修正要素で調整することで、過失相殺の率が簡単に導き出せます。

しかし、このマニュアルでは、被害者の側の一つひとつの過失が細かく加算される仕組みになっているので、最終的に導き出される過失相殺率は、通常人の常識的な感覚からは離れたものとなりやすいのです。

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