中国ビジネスに冷水「アステラス社員拘束」の恐怖 投資誘致の一方で不透明な「スパイ容疑」を連発

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企業関係者が対象になった事例としては、2018年の2月に広東省の広州で、伊藤忠商事の中堅社員がスパイの取り締まりに当たる国家安全局に拘束されたケースがある。この社員は駐在員ではなく日本の本社で中国関連の仕事を手掛けていたが、家族で中国に旅行した際に身柄を押さえられた。本件では、拘束されてからメディアが報じるまで1年かかっている。

伊藤忠の場合は、中国ビジネスに強い企業ということもあって、水面下でさまざまなパイプを使って中国側に早期解放を求めたようだ。だが、結果的にその努力は実らなかった。拘束された社員には2019年10月に中国の安全に危害を与えた罪で懲役3年の実刑判決が下され、刑期を満了してすでに帰国している。

2019年9月には、中国社会科学院の招きで訪中した岩谷將(いわたに・のぶ)・北海道大学法学研究科教授が「中国の国家秘密に関わる資料」を入手したとして拘束された。このときは、およそ1カ月後に日本で報道が流れたことを受けて、日本の中国研究者が一斉に懸念を表明した。

こうした声に動かされるようにして、安倍晋三首相が同年11月にタイで行われた東アジアサミットで李克強首相に懸念と憂慮を直接伝えた(ともに当時)。岩谷教授はそれからほどなくして、異例の短期間で解放された。早期解放を求める世論が日本で盛り上がったことに加え、習近平国家主席の訪日が検討されていた時期であったことも幸いしたようだ。

どこに地雷があるかわからない

「反スパイ法」による取り締まりの恐ろしいところは、規定があいまいで何が法に触れるのかが明確でないことだ。邦人保護に当たる在中国大使館からも「後だしジャンケンで『これは国家機密だ』と言われるので、どこに地雷があるかわからない」との戸惑いが聞かれる。

裁判も非公開で行われ、具体的な容疑が何だったのか外部からは計り知れない。同法は現在、改正作業が進められており、容疑の適用範囲はネットワーク関連などへさらに広がる見通しだ。

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