中国ビジネスに冷水「アステラス社員拘束」の恐怖 投資誘致の一方で不透明な「スパイ容疑」を連発

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3月20日には、アメリカの信用調査会社であるミンツ・グループの北京事務所が中国当局による家宅捜索を受け、中国籍の社員5人が拘束された。24日には米欧のメディアが一斉に報じ、中国でのビジネスに潜在するリスクにあらためて注目が集まっている。

中国の外国企業に対する対応にはちぐはぐな印象を受ける。ちょうど3月25日から27日には、北京市の釣魚台国賓館で「中国発展ハイレベルフォーラム」が開催されていた。2000年の発足以来、対外経済交流の重要なプラットフォームとなっている集まりだ。

多国籍企業の代表が100人以上集まったこの会議に、習国家主席は「中国はルール、制度、管理、基準など制度的開放を着実に拡大し、各国、各方面が制度的開放によるチャンスを共有できるようにしていく」というメッセージを寄せた。

なりふり構わず新規投資を誘うが

新型コロナ対策に加え、アメリカとの緊張の高まりから経済成長が鈍化した中国は、外国からの投資を呼び戻すために懸命だ。日本にも地方政府の投資誘致団が続々と来ている。中国側がコンサルティング会社に紹介を依頼し、「新規投資が実現すれば数千万円をキックバックする」と約束する事例もあるようだ。

国家指導者が自ら対外開放をアピールして外国からの投資を呼びかけているのに、一方で不透明な拘束を連発するのは理解に苦しむ。こうした姿勢は日中の経済関係の基礎を危うくする恐れがある。

日本企業も、社員の拘束リスクに真剣に向き合う必要がある。今までの事例をみる限り、拘束された人物の開放を求めて水面下で解決策を探る方法は有効ではない。日本の経済界が一致して、中国政府に対して声をあげるべき状況といえそうだ。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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