「総額2億円超」漁師町の奨学金制度が投じた一石 町と信用金庫がタッグ、画期的な若者支援の実態

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「ぶり奨学金」は行政と地方金融が共同で奨学金に取り組んだ全国で初めての事例として新聞やテレビで報道され、注目を浴びた。

「全国的に高校がない自治体は4分の1くらいありますし、大学がない自治体がほとんどです。同じような課題を感じている自治体が多いからこそ注目していただけたのかなと」(井上氏)

とは言え、日々の運用業務は、地道な積み重ねの連続だ。「ぶり奨学金」において現在、実際の運用を担っているのは鹿児島相互信用金庫の長島支店と西長島支店で、計14人のスタッフが実務を担っているという。また、「ぶり奨学金」についての相談は、日頃から支店窓口や電話で対応するほか、毎年中学校3年生の保護者に対して説明会を開催している。

「長島町には現在5つの中学校があり、中学3年生は全体で100人くらいいます。営業担当者は普段から長島のあちこちへ訪問しているので、どなたが対象者になるのかは大体把握していて、ピンポイントでご案内することもあります」(青木氏)

地方都市ならではの、顔の見える距離感での案内である。さらに14人のスタッフ全員が内容を把握しており、いつでも窓口で相談に応えられる体制を整えているのが非常に心強い。

できる限りの対応と、説明を続ける

サポートの手厚さは、審査にまで及ぶ。当然だが、「ぶり奨学金」にも審査は存在しており、誰でも必ず利用できるとは限らない。例えばカードの返済遅れなどで信用情報が毀損している場合は審査が通らないケースもある。そんな中、現場の担当者はできる限りの対応を模索しているという。

「万が一審査に落ちても、父、母だけでなく祖父、祖母が申し込むこともできます。最大で6人は申し込める可能性があり、祖父や祖母は年金収入があれば通る基準なので、そういったご案内をしてサポートをするようにしております」(青木氏)

さらに、運用面では、対象者に対して周知や書類に漏れがないようする点に多くの苦労がある。とくに、長島は4つの有人島がある。本島の長島と伊唐島、諸浦島は橋でつながっているが、獅子島にはフェリーでしかアクセスできない。また、日中は町外で働いている人も多い。

「ほとんどの方が共働きで、平日窓口まで来られる方が限られてきます。説明会にも出てくるか出てこないかわからないというところで、接触する機会っていうのを設けるのが非常に難しいなと。来られない方に対しては、営業が夕方~夜にご自宅に訪問して手続きをする形でやっております」(青木さん)

奨学金は大きな金額を借りることになる反面、制度の難しさや説明に課題がある。顔の見える距離感で支店の担当者がいて、窓口や電話対応だけでなく、場合によっては訪問対応してくれるのはどんなにか心強いだろう。

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