「総額2億円超」漁師町の奨学金制度が投じた一石 町と信用金庫がタッグ、画期的な若者支援の実態

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2004年に町唯一の高校が閉校した長島町では、高校は町外しか選択肢がない。「月のバス代だけでも3万円かかる」「寮に入ることを余儀なくされる」など、公共交通網の発達していない地域ならではの負担がある。そういった経済的事情から2人目、3人目の子どもをあきらめる家庭が少なくなかったのだ。それが町の奨学金の構想につながった。

折しも、同じく天然ぶりが有名な氷見市も同様のアプローチを考えていたため、共同で取り組むことになった。さらに、井上氏が以前から交流のあった慶応義塾大学SFC研究所イノベーション・ラボがアドバイザーとして加わり、2015年8月に詳細な検討がスタートした。

「いい奨学金制度を作ろうといい意味で氷見市とお互い競争しながら取り組めたのがよかったし、本当にいろんな人のご縁がつながったんだなと思います」(井上氏)

信用金庫と手を組んだ納得の理由

行政による奨学金制度は、返済能力があるにもかかわらず返そうとしない人が一定数存在するなど、モラルハザードが問題になっている。さらに行政のお金だけで賄うと、将来的に続けていけるかは疑問である。

「いかに、持続可能な仕組みにするか……」

それを考えたときに、ローンなどのノウハウを持っている金融機関の助力が必要だと考えた。協力してくれる金融機関を探した際に、すぐに協力を申し出たのが、鹿児島相互信用金庫だった。鹿児島県内に60店舗近くを配しており、独自のノウハウやネットワークを持っている信用金庫だ。

「鹿児島相互信用金庫は地域に根差した金融機関として『地域と一心同体』の考えでやっております。地域の将来はわれわれの将来でもありますので、このお話があったときに、われわれの知識やノウハウを役立てて、全面的に一緒に取り組んでいきたいと考えて参加しました」(青木氏)

「制度設計には審査や返済に関する知見が必要で、役場職員ではできない部分をサポートしていただけて、非常に心強かったです」(町口氏)

金利の設定は1.5%と、一般的な金融機関の教育ローン商品や国の教育ローンよりも低く設定された。高校生には月額3万円、大学生・大学院生・専門学校生には月5万円を支給する。卒業後に10年以内に町へ戻ってきたら返還を免除、帰ってこなくても利子が免除される。

財源は行政予算の一般財源として1億円の基金を用意した。そのうえで、ふるさと納税や寄付、東町漁協からの寄付が主な財源となる。初年度は町の事業者や出身者、東町漁協から約648万円の寄付が集まった。

「現在、財源の約9割はふるさと納税からです。長島町としては、貸した方が全員帰ってきて返還免除になっても回せる状態で運営しています。継続していける仕組みにできたのは、ふるさと納税から安定した財源を確保できたことが大きいです。また、毎年いろんな方々から寄付をいただけているのですごくありがたく気が引き締まる思いです」(町口氏)

長島町が日本一の生産量を誇るぶりは、荒波の中で育ち戻ってくる出世魚である。そのぶりになぞらえて「ぶり奨学金」と名付けた。いつか町に戻りたい若者に対して、外の世界で経験を積んで戻ってきやすいように応援する気持ちが込められている。

こうして、2015年7月頃から取り組みを始めて、2016年3月に「ぶり奨学金」はリリースされた。

東町漁協のブランド魚「鰤王」の刺身(筆者撮影)
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