「総額2億円超」漁師町の奨学金制度が投じた一石 町と信用金庫がタッグ、画期的な若者支援の実態
2023年現在、ぶり奨学金は申し込み実績は累計で286件、そのうち長島町に戻ってきて元金申請をした件数が46件。活用した人のうち約16%が戻ってきている。制度は2016年に始まったばかりなので、これから戻ってくる数も割合も増えると予想される。
運用する中で気づいたのは、地元に戻りたいと考えている若者が意外と多くいることだ。
「小さな頃から漁船に乗って育った子どもたちの中には、いずれは戻ってきて仕事をしたいと考えている子が結構多いと感じます。むしろ、親のほうが家業で苦労しているからこそ『子どもに同じ苦労をさせたくない』との思いから、外に出ろということが多いみたいです。でも一方で子どもに後を継ぎたいと言われたらどこかでうれしい気持ちもあるようです」(青木氏)
まだ将来が定まっていないけれども、「いずれは戻りたい」と考えている子どもにとって、「10年以内」なら返還免除されるのは大きい。また、帰ってこない選択肢も当然あるだろう。長島町では「子どもは出ていくもの」という考えもあり、出ていく選択肢もしっかり尊重されている。
「長島町の養殖業者は半数以上に後継者がいる状態ですので、今の第1次産業の実情を考えると、後継者率が高い町だと思います。それだけ若い子が帰ってきている土地柄ですね。そこに『ぶり奨学金』が加わることで、さらに戻ってくる助けになればと思います。そして、戻ってきた方々の子どもたちにまたこれを使ってもらいたい。いい循環になればと思います」(青木氏)
人とのつながりを感じられる奨学金
「ぶり奨学金」は、同時期に取り組んだ氷見市に加えて、そのほかの自治体にも広がっている。例えば下仁田町では「ねぎとこんにゃく奨学金」など、「ぶり奨学金」の仕組みをその地域に合わせて応用した独自の奨学ローン制度が作られている。長島町で持続可能なだけでなく、ほかの地域でも続いていく仕組みである。
「ぶり奨学金は、地元や出身者の皆さんが寄付をしてくれて、政策を作りながら関係性が深まっていると感じました。町としても、地元や出資者の皆さんが支えてくれているという気持ちが出てきます。財政的に持続可能なだけではなくて、人のつながりがあって温もりを感じるからこその制度だと思います」(井上氏)
奨学金や学費の問題を議論する際に、自助や公助の観点からなされることは多い。どちらも大切な観点だが、その中間の共助も大切だと井上氏は言う。
「そこが地域のよさだし、共助をどう取り戻して生かしていくかがすごく大事な気がしますし、今山形市での活動でもそれを模索しています」(井上氏)
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