「総額2億円超」漁師町の奨学金制度が投じた一石 町と信用金庫がタッグ、画期的な若者支援の実態
まず最初に、「ぶり奨学金」の制度面について、改めて説明しておきたい。ポイントは以下の3つだ。
・卒業後、10年以内に長島町に戻ってきた場合は、元金を長島町が負担
・戻ってこなくても、利息分は長島町が負担
「ぶり奨学金」は長島町の学生の保護者を対象とした教育ローンで、高校生に月3万円、専門学生・大学生・大学院生に月5万円を貸与する。教育ローンと聞くと「結局、奨学金ではないのでは?」という印象を抱く人もいるかもしれないが、「ぶり奨学金」では利息分については、進学を支援するため長島町に戻ってきたかどうかにかかわらず、その年度に支払った額が翌年度に補填される。 また、元金分も、卒業後10年以内に長島町に戻れば、その翌年度から10年間かけて補填される。
わかりやすくまとめると「利息を肩代わりしてもらえ、居住年数に応じて元金も肩代わりしてもらえる」制度設計なのだ。
町の人の率直な意見がぶり奨学金の構想に
ぶり奨学金の発案は2015年にさかのぼる。総務省の「地方創生人材支援制度」で派遣され、同年7月に全国史上最年少の副町長に就任した井上貴至氏が発案者だ。
鹿児島の最北端にある長島町は、4つの有人島と小さな島々が連なる土地だ。温暖な気候とリアス海岸を利用してぶり、赤土ジャガイモ、柑橘類の生産が盛んに行われている。ブランド魚「鰤王」で有名で、出荷元の東町漁協はぶりの年間出荷量が200万本を超える国内有数のぶりの産地だ。最新の設備導入に積極的で、若手も多く活躍している活気ある第1次産業の街である。
しかし一方で、長島町の人口は1960年には2万人を超えていたが、時代の流れと共に年々減少していき、2020年の調査では1万人を切り9705人となった。その中でも出生率は2.0以上と比較的高水準を維持している町ではあったが、さまざまな課題はあった。
「マクロ視点でとらえたとき、OECDの中でも日本はGDPに占める教育費の割合が少ない点などは以前から意識していました。でも長島町に来てからは、まずはデータを一度脇にやって、地元の皆さんから率直な意見を聞くことを意識して動きました」(井上氏)
井上氏は畑の手伝いをしたり、漁船に乗せてもらいながら町の人たちと会話を重ねる中で、子どもの教育費に頭を悩ませている人が多いことに気づいたという。
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