「脱・経済成長」と気軽に言う人は正直ズレている 絶対的貧困層をどうやって救うつもりなのか

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「脱成長が貧困をもたらす理由」とは?(提供:朝日新聞社)
元世界銀行主任エコノミストを務めたブランコ・ミラノビッチ氏。彼が日本を含む、先進国中間層の没落を早い段階から警戒し、その実態を精緻な研究によって明らかにした功績はあまりに大きいだろう。そんな彼が「脱成長」が叫ばれる世界に対し、冷静な議論を行うべきだと訴えている。その理由とは? 『2035年の世界地図――失われる民主主義 破裂する資本主義』に収録されたミラノビッチ氏の分析を、特別に公開する。

“グローバルな不平等”を乗り越えるための処方箋

――非常に重要なテーマの「グローバルな不平等」について聞かせてください。パンデミックは世界中で経済に甚大な打撃を与え、特に低所得者層が最も大きな打撃を受けています。「グローバル化が終わったかどうか」は別として、現在の形での資本主義は、経済的不平等や社会的不公正という根深い問題に対処することができるのでしょうか。

ブランコ・ミラノビッチ:資本主義の形態によって、不平等への対処の仕方は異なると思います。我々は、国家が大きな役割を果たす「政治的資本主義」について話しました。

しかし、中国がジニ係数で測定すれば、アメリカより高い値の不平等を抱えていることを忘れてはなりません。このような不平等があるのは、地域間、つまり農村部と都市部の所得に大きな差があるためです。そして、比較的小規模で均質な国で不平等がずっと少ない国があります。もちろん、日本の不平等の程度も、中国の不平等よりずっと低いです。台湾も中国よりも格差が少ないです。

グローバルな不平等の問題に対処する方法はあるのです。単一の処方箋はありませんが、すでによく知られ、確立した政策手法もあります。

非常に高い所得への高率の課税や、私学教育よりも公立の無償教育を重視することなどです。そして、巨額の遺産には相当高率の相続税を課すことです。これにより実際に社会の流動性を高めることができ、長期的には格差は縮小するでしょう。

特段新しいことではありませんし、これまで政策として試されたことがないわけでもありません。

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