過去に戻れる喫茶店に来た7歳少年の切なる願い 小説『やさしさを忘れぬうちに』第1話全公開(1)

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この喫茶店で過去に戻るためには、他にもめんどくさい、非常にめんどくさいルールがある。

まず初めに、

【制限時間】

がある。

たとえ、数にコーヒーを淹れてもらって過去に戻れても、過去に戻っていられる時間は、時田家の女である数がカップにコーヒーを注いでから、そのカップに注がれたコーヒーが冷め切ってしまうまでの間だけとなる。

「え? そんなに短いんですか?」

と、誰もが驚く。

果たしてコーヒー一杯が冷め切るまでに何ができるだろうか。時間にして、せいぜい十分程度。カップラーメンなら、ヤカンを火にかけて沸騰するまでに五分。お湯を注いで三分待って、食べるのに残された時間はわずか二分。飲み会だって、たったの十分じゃ注文した料理すら出てこない。

「まぁ、それでも過去に戻れるのなら……」

そう言って、過去に戻りたがる客もいる。

だが、次のルールを聞くとほとんどの客は、

「それじゃ過去に戻る意味がない」

と、諦める。

それは、

【過去に戻ってどんな努力をしても現実を変えることはできない】

というルールである。

運良く席に座り過去に戻れても

人生の後悔は大きく分けて二通り。やってしまった後悔と、やらなかった後悔。

前者の後悔は、心ない言葉で誰かを傷つけた、告白したことで気まずくなってしまったなど。取り返しのつかない行動、もしくはその行動による失敗である。

後者は、一言声をかければよかった、告白しておけばよかったなど。行動できなかったことで残る後悔を指す。

過去に戻りたい理由の多くは、それらの行動をもう一度やり直すためだ。それなのに、過去に戻ってどんな努力をしても現実を変えることはできないとなれば、誰だって、

「それじゃ過去に戻る意味がない」

と、言いたくなる。

だが、過去に戻るためのルールはこれだけではない。

過去に戻るためには、喫茶店のある席に座らなければならないのに、その席には常に先客がいる。過去に戻るには、その先客が席を立ち、トイレに行くのを待たなければならない。

運よく席に座り過去に戻れても、その席から離れることはできないし、過去に戻ってもこの喫茶店を訪れたことのある人物にしか会うことはできない。

次ページ勘繰る客もいるが、数は受け流し、言い返さない
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