ヒト致死率53%「鳥インフル」から身を守れるのか パンデミック現実味も「備蓄ワクチン」がない
厚生労働省によれば、全世界で2003~2022年12月までに868人が感染し、457人が死亡した。致死率は驚異の53%に上る。もっとも、発病して診断された人を母数とした致死率であり、もっと広く検査したら感染者がたくさんいて、実際の致死率はもっと低い可能性が高い。だが致死率が5%だとしても、それは相当危険なことには変わりがない。
これまでのところ、ほとんどの感染者は感染した鳥との接触が確認されていて、ヒト−ヒト感染は起きていないとされている。日本での感染例もない。
だが、このH5N1ウイルスが人類にパンデミックを引き起こす可能性は、今から10年以上前の『Nature』誌ですでに指摘されている。
研究では、H5N1がくしゃみや咳で感染(飛沫感染)するようになる複数の変異を、フェレットを使った実験でつきとめた。フェレットは、ヒトでの感染の広がりを調べるのに最適な動物モデルとされる。
まず、2009年にパンデミックを起こした新型インフルエンザ「H1N1」ウイルスの一部の遺伝子を置き換え、「ハイブリッドH5N1-H1N1ウイルス」を作った。それをフェレットに感染させては取り出し、別のフェレットに感染させる……という実験を繰り返したところ、変異が生じ、飛沫感染しやすいウイルスが生じたという。
研究チームは、「飛沫感染しやすい変異型H5N1ウイルス」は自然界でも十分出現しうるとしている。鳥インフルウイルス(H5N1)も、特定の遺伝子に変異が生じればヒト−ヒト感染が始まる、ということだ。
日本にはワクチンの備蓄がない?
実際、2009年の新型インフルエンザ「H1N1」は、鳥類から豚を経てヒト−ヒト感染を起こすようになり、あっという間にパンデミックとなった。豚は、鳥インフルにもヒトのインフルにもかかるため、豚の体内で両者が出会って組み換えが起きたと見られている(なお、そのときのH1N1は、季節性インフルエンザとして今も存続している)。
身近な哺乳動物にまで広がり始めたH5N1が、同じようにしてヒト−ヒト感染しやすい性質を獲得するのも、時間の問題に見える。
「だとしても、日本は新型インフルのパンデミックを見越して、ワクチンを備蓄しているはず」という人もいるだろう。
確かに政府は、鳥インフルのH5N1ウイルスをベースとした「プレパンデミックワクチン」の製造を2006年に開始し、ハイリスク者や医療従事者への接種を想定して常に1000万人分以上を備蓄してきた。
ただし、さまざまな鳥インフルウイルスのうちどれが実際ヒト−ヒト感染を起こすようになり、パンデミックに発展するかは読みきれない。実際、日本政府が今備蓄しているプレパンデミックワクチンは、流行中の「H5N1」ではなさそうなのだ。
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