ヒト致死率53%「鳥インフル」から身を守れるのか パンデミック現実味も「備蓄ワクチン」がない

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とはいえ道のりは険しく、現状ではまだアメリカも従来の不活化ワクチン頼みだ。

もしH5N1パンデミックが発生した場合、アメリカ国内だけで少なくとも6億5000万回分(2回接種換算)のH5N1ワクチンを4.3カ月以内に調達する必要があるが、製造能力に専門家は危機感を募らせているという(The New York Times報告書)。

20価mRNAワクチンで鳥インフルもカバー?

それもここへきて急展開を見せつつある。新型コロナで登場した「mRNAワクチン」が、ワクチンの常識を変えようとしているからだ。

ウイルスそのものを培養しなければならない不活化ワクチンと違い、mRNAワクチンは化学合成で早く安く大量に作れる。実用化のうえで大きな強みだ。

昨年11月、アメリカペンシルバニア大学などの研究者チームは、20種類のインフルウイルスに対応した「20価インフルエンザmRNAワクチン」を開発、動物実験で有効性を確認できたと『Science』誌に発表した。

20種類のmRNAワクチンをそれぞれ作り、すべてを混合したうえでマウスとフェレットに接種したところ、重症化を劇的に予防し、死亡リスクを減らす効果が得られたという。

ただし、この場合の効果は感染予防ではない。また、20種類のうちにはH5N1も含まれるが、さらに細かく分類するなら現在流行中の鳥インフルウイルスと完全に一致しているわけではない。

それでもこの20種類混合ワクチンをフェレットに接種した後に、流行中の鳥インフルエンザに感染させる実験を行ったところ、その場合も重症化を防ぐ効果が確認できた。

これは新型コロナのmRNAワクチン同様、抗原・抗体反応の作用(液性免疫)だけでなく、細胞障害性T細胞の働き(細胞性免疫)が促されたことによる。

つまり、鳥インフルエンザに変異が生じ、ヒト−ヒト感染を起こすウイルスとなってパンデミックが発生した場合も、この20種混合mRNAワクチンなら迅速に準備でき、有効性が期待できるのだ。

これまで日本政府はずっと、国産インフルエンザワクチンにこだわってきた。国防の観点から必要なことではあるのだろう。

だが、いざという時、従来ワクチンでは対応が追いつかない可能性が高い。国内インフルワクチンメーカーは果たして次世代ワクチン、あるいはそれに匹敵するワクチンへと速やかにシフトできるだろうか。

「いざという時」は、想像しているよりもずっと近づいているかもしれない。インフルワクチンの生産・供給体制を根本的に見直す時期が、いよいよ来たように見える。

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